14 song. ページ15
もうすでに寮は目の前。
(あれ、私はもう帰ってもよろしいんでしょうか?)
そろそろと女子寮の玄関へ足を引こうとする心春を、一織と陸が両サイドの腕を確保し、囚われた宇宙人状態となった。
「わかってます、それはちゃんと年長者の俺と大和さんが責任を持ちますんで……はい、ありがとうございます」
しばらく神妙な顔で電話をしていた三月だったが、スマホをおろし、ふうっと短く息を吐いた。
「万理さんに許可貰って、男子寮のリビングまでなら心春も入っていいことになったから」
「へ?」
「今日から飯は一緒に食べようって話だよ」
三月の言葉がすぐに理解できなくて、心春は暫く首を傾げたまま固まった。
「よく万理さんが許可だしてくれたなあ」
「心春が女子寮に引っ越してきたときも笑顔で「女子寮に近づくことは、禁止だからね?
?」って言われて、すっごく怖かったし」
「もはや娘にたかる虫を威圧するお父さんの眼差しだったな」
初めて寮に入った日、狼がなんちゃらと言っていた万理を、ふと思い出した心春。
「心春の食生活のこと言ったら快くOKしてくれたよ。あと、明日心春は説教だって言ってたぞ」
「ドンマイ……こはるん」
「骨は拾ってアゲマス」
「わたし、明日死ぬのですか……?」
あまりにも皆が深刻そうな顔をするものだから、心春は怖くなって震える。
三月は「ま、とにかく」と話を切り替えた。
「今日の夕飯は肉じゃがを作るからな! 心春も食べてけよ?」
「やったね、心春!」
「愛らしいレディとのディナーはいつもよりも美味しく感じるでしょう」
「あの……ご迷惑ではないでしょうか?」
保護者になってくれた親戚に「心春ちゃん、一緒にご飯食べに行きましょう?」と誘われた時を思い出す。あの時も、心春は申し訳ない気持ちが勝って何度も断ってきた。
皆に、迷惑をかけたくない。そう思い、きゅっと拳を握った。
「うちはもう7人もいるんだぜ? 一人や二人増えたところでかわんねえよ」
「お前さんは気を遣いすぎなんだよ。ここは好意に甘えちゃいなさい」
陸や壮五も「そうだよ」と優しく言ってくれて、環は「行こうぜ」と言って力強く握られた拳を優しく解いて、手を引いた。一織も呆れたように溜息を吐きながらも背中を押して心春を寮へ招き入れてくれた。
「ありがとうございます……! お言葉に、甘えさせていただきます」
心春が勇気を振り絞って言えば、三月は嬉しそうに笑って「おう!」と返した。
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作者名:冬眞 | 作成日時:2021年7月3日 13時