12 song. ページ13
「あ、ありがとう、ございました!」
息を切らせながらも、出来るだけ大きな声で感謝を伝える心春。周りからはパチパチと拍手が鳴り、応援の言葉があちらこちらから飛び込んでくる。その声にひとつひとつ答えるように心春は「ありがとうございます!ありがとうございます!」と各方面に頭を下げた。
「相変わらず腰が低い!」
「そこが可愛いよねえ〜」
なんて周りから暖かな笑いが起きて、心春は恥ずかしく思いながらもへにゃりと表情を緩めた。
最近では路上ライブでもちゃんと歌うことが出来るようになり、今でも緊張はするけれど、それ以上にこの時間を楽しめるようになっていた。
「今日も素敵な歌でしたよ、心春さん! 日に日に歌がのびやかになって、どんどん魅力的な声になってきてますね」
「あ、ありがとうございます!」
事務所への帰り道。いつも万理は「今日の良かったところ」を丁寧に伝えて、心春のモチベーションを上げてくれる。ネガティブな彼女だけれど、万理のおかげで自分に少し自信が持てるようになってきていた。
「お、心春は路上ライブ終わりか?」
「みなさん!」
事務所の階段から降りてきたのはIDLiSH7だった。
「お疲れ様です!」と深く頭を下げると「腰低いなあ〜」と笑われる。さきほど観客席から聞こえてきた台詞と同じで、心春は苦笑いを浮かべた。
「心春さん、今日はもう疲れただろうし、みんなと一緒に寮へ戻ってもいいよ」
「わかりました。今日もありがとうございました、大神さん!」
にこやかに手を振って階段を登っていく万理の背中を見送る心春のもとへやってきたナギは、彼女の右手を優しく掬い取った。
「それでは、寮までエスコートします」
「あ、あ、あ、あの、転んだりしないので、大丈夫、です!」
丁重にお断りすると「oh……残念デス」と名残惜し気に彼女の手を離した。
「最近調子よさそうだなあ、ハル」
「少しずつですが、ライブが楽しい!って思えるようになってきました!」
「最初のガッチガチな心春とはまるで別人みたいだなあ」
「確かにそうですね」
「み、三月さん〜〜一織さん〜〜〜」
和泉兄弟に揶揄われて、心春の頬にはぼっと熱が広がる。
「そう言えば、女子寮って心春一人なんだよね?」
陸の問いかけに、心春はこくりと1つ頷いた。
「小鳥遊事務所お抱えのタレントはまだ俺たちしかいないからなあ」
「寂しくはないかい?」
気遣うような壮五の言葉に、心春は曖昧な笑みを浮かべた。
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作者名:冬眞 | 作成日時:2021年7月3日 13時