60.朝ぼらけ ページ10
翌朝、いつもなら寒さを感じる
起き抜けに今日は温もりを感じた。
布団から出て朝食を作りに行こうとした時、
不意に腕を掴まれて杏寿郎さんの胸に引き寄せられた。
ドクンっと胸が大きく音を立てる。
「…誰とでもこうするのか?」
「え?」
顔を上げて彼の顔を見ると、
寝ぼけ眼でぼんやりと私を見つめていた。
「誰とでも寄り添って寝てしまうのか?
…君は優しいからな」
「いくら優しさだったとしても、しない…」
私はそう小さく呟いた。
「…ん」
彼は安心したように微笑んで再び目を閉じてしまった。
きっと寝ぼけていたのだろう。
もしかしたら慕っていると言っていた
睡蓮の人のことを思い出していたのかな…
そう考えると胸の奥が締め付けられるように痛んだ。
それにしてもこの状況はまずい。
なんせ私は今、
彼の腕の中で身体を起こすことができない。
そっと起き上がってみようとすると、
彼の腕の力はぎゅっと強くなった。
布団から出られない。
心臓が飛び出してしまいそうなほどうるさい。
「杏寿郎さん、起きてください」
「ん!?…す、すまない!!!」
寝起きはいいみたい。
杏寿郎さんは慌てて抱きしめていた腕を解いた。
「いえ…!大丈夫ですから!」
私だって…頬を赤らめて慌てるあなたに聞きたい。
"誰とでも寄り添って寝てしまうの?"って。
「朝食の準備をしてきますね!まだゆっくりしていて」
「いや!俺も起きよう!手伝うぞ!」
杏寿郎さんは身体を起こして
ぐーっと猫のように伸びをすると身支度を始めた。
先程まで私のそばにあった温もりは、
真冬の空気にすぐに奪われてしまった。
私はすぐに暖房のスイッチを押してカーディガンを羽織る。
今日はクリスマス。
社会人になってからは一人で過ごすこともあれば、
家族と過ごすこともあった。
同じ家に帰る人がそばにいるのは久しぶりだ。
◇
朝食を食べ終えると出かける準備を始めた。
夜はイルミネーションを見るから
コートを着て行った方がいいよね。
リップを塗ろうと探している時、
矢田川さんからもらったリップが目に止まった。
私はそっと手に取るとドレッサーの上に置いた。
その隣にあったほんのりと色づくリップを唇に重ね、
リップをポーチにしまう。
手には杏寿郎さんからもらった手袋をして。
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作者名:狐姫 | 作者ホームページ:https://mobile.twitter.com/kohime_yume
作成日時:2023年9月17日 0時