59.プレゼントの代わりに約束を ページ9
彼はしばらく天井を見つめた後、
何かを思いついたように静かに微笑んで言った。
「約束が欲しいな!」
「約束?どんな?」
「自分の心に素直でいること」
「私が?」
「うむ」
「ふふっ。私は割と自分に正直ですよ?
家族にはすぐに顔に出るタイプだなんて言われますし」
でも、杏寿郎さんはどうしてそんなことを…?
彼は寂しそうに眉を下げて笑った。
「顔に出ていたとしても、
自分の心に素直に動けるとは限らないだろう?」
言われてみればそうかも。
嫌だなって思ったことも、
自分が思うことと違うなって思ったことも
結局いつも押し殺している。
それが肯定的な想いの時も──
「考えて、迷って、分からなくなった時、
答えはいつだって君の心にある。
正解も間違いもない。その心に従って動けばいい。
それが君を、君自身を形どっていくのだ」
杏寿郎さん…
「約束してくれるか?」
私は黙って頷いた。
彼がなぜそんな約束をお願いしたのか私には分からない。
「でも、それじゃあプレゼントにならないです…」
「俺には十分だ。
大切な人たちを守ることができればそれだけで十分」
彼はどこまでも謙虚で、まっすぐだ。
「ねえ、杏寿郎さん」
「ん?」
「今、自分の心に素直になってもいい?」
杏寿郎さんは不思議そうな目をしている。
たとえこの先の私の未来にあなたがいないとしても、
私は忘れないよ。あなたと過ごしたこの日々を
絶対に忘れないから──
あなたにとってもそうであったらいいのになあ。
私は彼にそっと寄り添うように近づいて目を閉じた。
「今日は寒いから少しだけ…」
「うむ。寒いからな。今夜は本当に冷えるな。
君は湯たんぽみたいにあたたかい」
「杏寿郎さんもあたたかい…」
安心する温もりをそばで感じながら私は目を閉じる。
くすぐったいこの想いを音に乗せてしまえば、
きっとこの先辛くなる。
そのことだけは、素直になれたとしても
どうしても言えない。
目を閉じてぐるぐる考えていると、
不意に大きくて温かい手が私の頭を撫でた。
その手つきは優しくて、
きっと今までは弟の千寿郎くんにしていたのだろうと
すぐに感じた。
クリスマスイブの夜、
私たちは寒さを理由に互いに身を寄せ合って眠りについた。
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作者名:狐姫 | 作者ホームページ:https://mobile.twitter.com/kohime_yume
作成日時:2023年9月17日 0時