57.浮かんだ顔 ページ7
さらっと誘ってしまった。
まるで杏寿郎さんと行くのが当たり前みたいに。
タクシードライバーさんからチケットを2枚もらった時、
真っ先に浮かんだのは他の誰でもなく、彼だった。
素直に杏寿郎さんの喜ぶ顔を見たいと思った。
「イルミネーション…！色とりどりの電飾のことか！
良いな！行こう！」
「はい！明日はドライブしましょう！」
「俺は運転できないが…いいのか？」
「私、運転するの好きなので！お任せください！」
「それは有り難い！よろしく頼む！明日、楽しみだな！」
音符が彼の周りに出ていそうなくらい
楽しそうに微笑む杏寿郎さん。
遠足の日を待ち侘びる子どもみたい。
「杏寿郎さん、夕飯にしましょうか」
「うむ！」
冷蔵庫に入っていたもので適当に創作料理を作る。
なんてこともない料理なのに、杏寿郎さんは
いつも「うまい！」と褒めてくれる。
明日はちょっと良いものをご馳走するから、
今日はあるもので許してね。
＊
ご飯を食べ終え、入浴を済ませると、
甘いココアを飲みながら
彼がお風呂から出るのを待っていた。
ふと、矢田川さんからもプレゼントをもらったことを
思い出し、私はコートのポケットに手を入れて取り出した。
包装紙に包まれた小さな箱を開けてみると、
そこには綺麗なリップが入っていた。
「可愛い」
透明なリップの中に小さな花が閉じ込められている。
目を閉じると別れ際の彼の笑顔が浮かぶ。
くしゃっとした笑顔は彼を少し幼く見せる。
矢田川さんは気遣いのできる人だ。
今回、たまたま出張が一緒でクリスマスだったから
プレゼントをくれたのかなあ。その心の奥を私は読めない。
「やはり湯船に浸かるのは良いな！芯から温まる！」
杏寿郎さんの声が聞こえ、
私は慌ててリップをしまおうとして落としてしまった。
リップはカラカラと音を立てて床を転がり、
杏寿郎さんの足に当たって止まった。
「落としたぞ？」
そう言って彼はリップを拾って私に渡した。
私、何を慌てていたんだろう。
何も隠す必要なんてないのに…
「そうだ！Aさん、コレを受け取って欲しい！」
杏寿郎さんは封筒を私に差し出した。
そっと開けると中にはお金が入っていた。
「遅くなってすまないが…」
「こんなに受け取れませんよ！
自分の使いたいものに使ってください」
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作者名：狐姫 | 作者ホームページ：https://mobile.twitter.com/kohime_yume
作成日時：2023年9月17日 0時
