55.杏と桃 ページ5
「電話番号、打ち込んでもらってもいいかな？」
「はい！」
スマートフォンを渡すと、すぐに電話番号を打ち込んで
名前を登録してくれた。
杏寿郎さんは今でこそ少しは慣れたものの、
こんなに早く入力をすることはできない。
「では、ここに連絡ください！」
彼はそう言うと、
白い息を吐きながら東京の人混みに消えて行ってしまった。
＊
そして、今、私は帰りの電車に乗っている。
今になって冷静になって考えてみると、
かなり大胆なことをしてしまった…
初めて会った女の人に、急に連絡先を教えて！
なんて言われたら警戒するよなあ…
ん？いや、桃寿郎くん、全然警戒していなかったような…
むしろすぐに返事して電話番号を教えてくれた。
最近の若者はそういうものなのか！？
いやいや…
そんなことを考えているうちに最寄駅に着いた。
駅前はライトアップで彩られていて綺麗だが、
冬の夜空の星はそれに負けないくらいだ。
夜は一段と冷える。
私は冷え切った手を擦って駅の階段を駆け下りた。
今日はタクシーを使って家まで帰ろう。
タクシー乗り場で乗車すると、
ドライバーに家の最寄りのコンビニに向かうように伝えた。
明日はクリスマス。
今年はある意味一人じゃないからなあ。
せっかくだし、それっぽい料理や飾り付けをしようかな。
杏寿郎さん、イベントごととか楽しんでやってくれそう。
二人ならきっと楽しい。
「お客さん、遅くまで仕事だったの？」
ドライバーのおじさんが少し掠れた声で話しかけてきた。
「はい。東京だったので遅くなっちゃいました」
「そうかい。それはご苦労様。
そうだ。良かったらこれもらってくれないか？」
おじさんは私に2枚の券を差し出した。
「ありがとうございます。何ですか？」
「イルミネーションパークの割引チケットだよ。
親戚に貰ったんだけど、ほら、もう年寄りだし、
俺なんかは行かないからさ〜」
「え！？良いんですか！？」
「いいの！いいの！年末まで頑張るお客さんにあげる！」
「嬉しいです！ありがとうございます」
「いいってもんよ〜」
市内でも有名なパークのチケットを2枚もらった。
杏寿郎さんを連れて行ったら喜ぶかなあ。
大正時代にはないもんね。
タクシーを降りると、足早に家へと向かった。
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作者名：狐姫 | 作者ホームページ：https://mobile.twitter.com/kohime_yume
作成日時：2023年9月17日 0時
