54.万華鏡 ページ4
「その万華鏡は幸せを運んでくれる」
「え?いいの?」
「もちろん!実はもう一つ同じものを持っているから」
そう言って彼はもう一つの万華鏡を取り出して見せてくれた。
「ありがとう。じゃあ、私そろそろ行かなきゃ」
「きっとお母さんが楽しみに待っている。
君に会えて良かった。では、さようなら」
「さよなら」
狐の面を被ったその人は、
私のあげた赤い薔薇を大切そうに持ち、
その場を去って行った。
打ち上がる花火はずっと真上に咲いていたはずなのに、
私は随分とそれに気づかなかったようだった。
彼が去った時から、
打ち上げ花火の音が私の耳に飛び込んできたように感じた。
◇
プルルルルル
勢いよく鳴るベルの音で目を覚ました。
外はすっかり暗くなっている。
私は東京出張からの帰りの電車でどうやら眠ってしまい、
夢を見ていたようだ。
良かった。降りる駅は二つ先だ。
懐かしい夢を見た。
あれは高校の時の出来事だったなあ。
そんなことを考えていると、
駅に向かう途中で出会った少年のことを思い出した。
東京の人混みの中で見かけた杏寿郎さんにそっくりな少年。
私が転びそうになった時に助けてくれた。
*
「杏寿郎さん!東京に来ていたのですね?」
「ん?何のことだ!?
お姉さん!おそらく人違いだと思いますよ!」
「え!?だって…」
その人をよく見ると、杏寿郎さんに似ているけれど、
確かに少し違った。
それに何より、杏寿郎さんより背が低い。
「怪我はないだろうか?顔をぶつけなくて良かった!」
「あなたは一体…」
「俺か?俺は煉獄桃寿郎だ!」
「煉獄…桃寿郎…?」
「うむ!…おっと、すまない!この後稽古があるので!
俺はこれで失礼する!では、お姉さん、気をつけて!」
同じ煉獄という名字。
似た顔立ち。
東京…
彼はもしかしたら杏寿郎さんの子孫なのかも…!
子孫なら杏寿郎さんが元の時代に戻る方法の手がかりを
知っているかもしれない!
「ま、待って!!」
「ん?」
「あの!どうしても…
どうしてもあなたに聞きたいことがあるの!
今日が忙しいなら、連絡先だけでも聞いてもいいかな?
あ!!な、ナンパとかそういうのじゃなくてですね…!」
私が慌てていると、桃寿郎くんは爽やかな笑顔で笑った。
「いいですよ!」
114人がお気に入り
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名:狐姫 | 作者ホームページ:https://mobile.twitter.com/kohime_yume
作成日時:2023年9月17日 0時