77.おまじない ページ27
雪解けはまだ先だというのに、
私に降り積もった優しい雪は少しずつ溶けていっている。
そっと静かに、だけど、確かに。
それは砂時計の砂が落ちていくように
残りの時間が分かるように溶けていくのか、
それとも瞬きする間にあっという間に消えてしまうのか。
「はあ…」
ため息が見慣れた街並みに溶けていった。
"心のままに"か…
「約束が欲しいな!」
「約束?どんな?」
「自分の心に素直でいること」
クリスマスプレゼントの話をした時に
杏寿郎さんと似たようなことを話したなあ。
「考えて、迷って、分からなくなった時、
答えはいつだって君の心にある。
正解も間違いもない。その心に従って動けばいい。
それが君を、君自身を形どっていくのだ」
彼の言葉を思い出して胸がぎゅっと苦しくなった。
今日のこと、杏寿郎さんに話すべきなのか、
それとも話さない方がいいのか…
彼が元の時代に戻ってしまったら
きっと彼は二十歳で…
だったら──
「おかえり!」
玄関を開けると明るい笑顔が迎えてくれた。
「杏寿郎…さん」
気づいた時には、私は思わず杏寿郎さんを
思いっきり抱きしめていた。
「Aさん!?どうかしたのか!?」
涙がじわりと彼の服に溶け込んでいく。
冷たくて、熱い涙。
だったら──
私は杏寿郎さんに生きていてほしい。
生きるために…ここにいてほしい。
私の"心のまま"はこれが答え。
杏寿郎さん。私は間違っているかもしれない。
だから、もう少しだけ考えさせて…
許してほしい。
「Aさん」
優しく名前を呼ぶその声を私は失いたくないよ。
静かに離れた身体。
俯く私の額に、彼はそっと口づけを落とした。
「涙が止まる、まじないだ」
微笑んだ顔はいつもより大人びて見えた。
「遅くなるだろうと思って、俺が作ってしまった!
一緒に食べないか?オムライス」
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作者名:狐姫 | 作者ホームページ:https://mobile.twitter.com/kohime_yume
作成日時:2023年9月17日 0時