76.心のままに ページ26
「ねえ、桃寿郎くん」
「はい」
「私があなたに会ったことを杏寿郎さんはまだ知らない。
今ね、少し頭が混乱していて、自分だけだと
間違えてしまいそうだから聞いてもいいかな?」
「もちろんです」
「桃寿郎くんは…杏寿郎さんに会ってみたい?」
杏寿郎さんにとって、桃寿郎くんは直系ではないが、
子孫にあたる存在。
近しい存在が元の時代に戻るための鍵になっている
可能性もあるけど…もしかしたら交わってはいけない存在
かもしれない。
それに、もし、運命の時計の針が動き始めて
このまま杏寿郎さんを元の時代に戻したら、
桃寿郎くんの話にあった通り二十歳で…
「Aさんは、どうしたいですか?」
「私は…ごめん、分からない」
空になったグラスを眺めると彼の顔が浮かんだ。
思い出す顔はいつだって笑顔で、
向日葵みたいに温かくて、まっすぐで、優しい人を
私はただ守りたい。
「俺はAさんの出す答えに従います!
無論、責任を負わないつもりで
申し上げた訳ではありません!
Aさんが出す答えであるならば、
俺はそれが最善であると考えたからです!」
「え!?いいの…?私は自信がないよ。
選択を間違えてしまうかもしれない」
私がそう口にすると、桃寿郎くんは眉を下げて微笑んだ。
「大丈夫です!たとえ違う答えを選んだとしても、
道はひとつではありません!
それに、あなたが悩んで出した答えなら
全部正解に変わります!
何を選んだっていいんですよ、Aさん。
俺はあなたが選んだ答えを応援しますから!」
そう言った桃寿郎くんの姿は高校生の青年ではなく、
まるで杏寿郎さんそのもので…
「杏寿郎さん…」
気づいた時にはその名を口にしていた。
ハッと驚いた表情をした桃寿郎くんは
まっすぐに私を見つめた。
「千寿郎の手記に書いてありました。
"兄、杏寿郎は、人のためになる道は
剣士ひとつだけではない。周りをよく見てみるように
言葉をかけてもらった。心のままに自分が正しいと
思う道を進め、と"
杏寿郎さんは鬼殺隊の柱になるほどの実力のある人
でしたが、弟の千寿郎は剣士になるのが難しかった
ようです。そんな千寿郎にかけた杏寿郎さんの言葉です。
だから、もし、杏寿郎さんがこの相談をAさん
から受けていたら、俺と同じように言うと思います」
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作者名:狐姫 | 作者ホームページ:https://mobile.twitter.com/kohime_yume
作成日時:2023年9月17日 0時