73.手繰り寄せる糸 ページ23
「行ってきます」
「うむ!道中気をつけて!」
目を細めて笑う杏寿郎さんは、
私を玄関の外まで送り届けてくれた。
私が控えめに手を振ると、
手を大きく振って"待っている"と私を送り出した。
待ち合わせ場所まで歩いて行く私の背中を
北風が押していく。
冷たい風だけど、私の手は彼からもらった手袋のおかげで
寒さを感じない。
駅前のカフェに着いて、木造の重たい扉を開けた時、
中へ吸い込まれるように風が足元をさらった。
チリンとベルが鳴ると、
店員さんが予約席を案内してくれた。
「Aさん!こんにちは!」
「こんにちは。待たせちゃってごめんね」
「いえ!俺も先程着いたばかりです!」
挨拶を済ませると、座って飲み物を注文した。
すると、向かい側からぐうっとお腹のなる音が聞こえた。
「あっ!すみません!
朝早かったもので、腹の虫が鳴ってしまいました!」
「ふふっ。大丈夫だよ。軽く食べられるもの頼もうか!」
ピザも追加で注文することにした。
私はグラスに注がれた水を
一口飲んで小さく息をついた。
「今日は来てくれてありがとう」
「俺もあなたにもう一度会いたいと思っていましたので」
少し若い杏寿郎さんみたい。
「あの…ね。出会ったばかりでこんなこと言うと、
信じてもらえないかもしれないんだけどね…
恐らく、あなたの先祖にあたる人が
今、この時代に来ているの…」
ジャズが流れる店内
グラスの中の氷がカランと音を立てた。
目の前にいる桃寿郎くんの目を見ることができないでいた。
だって、きっと変なことを言っているって
そう思われているから。
どうしよう。
やっぱり、言うんじゃなかった…
「俺の先祖が…?なるほど。きっと訳があるのでしょう」
「え!?し、信じてくれるの!?」
「ははは!信じますとも!それに言ったではありませんか!
あなたを待っていた気がすると」
桃寿郎くんはにっこりと笑うと
運ばれてきたピザを頬張った。
「ありがとう。その人ね、
今、私と一緒に暮らしているんだけど…
桃寿郎くんにすごくよく似ていて、もしかしたらと思って
この前声をかけたんだ。そうしたら名字も同じで…」
「そうでしたか!その方の名前は?」
「煉獄…杏寿郎」
私がその名を口にすると、
桃寿郎くんは目を一層大きく開き、眉を下げて微笑んだ。
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作者名:狐姫 | 作者ホームページ:https://mobile.twitter.com/kohime_yume
作成日時:2023年9月17日 0時