53.【過去】お面の青年 ページ3
「いえ、娘さんに会えて良かったです」
奈津子ちゃんの母親と一緒にいた青年は
どうやら奈津子ちゃんのお兄さんではなく、
奈津子ちゃんを探していた人だったようだ。
「本当にありがとうございます!
ほら、奈津子、ちゃんとお礼を言って!」
「ありがとう。お姉ちゃんまたね!」
「うん!ばいばい!」
会釈をする母親に連れられながら
手を振る奈津子ちゃんを見送る私は穏やかな気持ちだった。
「少しいいですか?」
そう声をかけた青年は狐の面をしており、素顔は見れない。
私よりずっと背が高かった。
「はい?」
青年は着ていた浴衣の懐から白い布を取り出すと
私の手に素早く巻いた。
「血が出ていた」
「あ、さっき薔薇を触ったから棘かな…
ありがとうございます」
奈津子ちゃんに花をあげる時のものだろう。
あまり痛みを感じなかったので気がつかなかった。
「優しいですね」
「え?」
「実は少し前にあなたと奈津子さんを見かけて
様子を見ていました。そこで母親とはぐれたことを知り…」
「探しに行ってくれていたんですね!
ありがとうございました!」
なんていい人なのだろうと思い、
つい手を取って握ってしまった。
大きくて温かい手。
"男の人の手"だと思うと急激に恥ずかしくなって
慌てて手を離した。
するとその拍子に彼の懐から何が地面に転がり落ちた。
「ごめんなさい!」
私は落ちたものを拾い上げ、彼に渡した。
それは綺麗な和柄の筒状の物で軽かった。
「ありがとう。これは万華鏡なんだ」
「万華鏡?聞いたことはあるけど、見たのは初めて」
涼しい秋の風が、ほどかれた長い髪をさらう。
「その花束は?」
「これは母にあげようと思って。
色々あって少しの間一緒に住んでいなかったけど、
今日帰ってくるんです。母は花が好きだから」
母のことを思うと瞳が潤んだ。
「それは良かった」
「あ!そうだ」
私は花束の中から一本の赤い薔薇を取り出して彼に渡した。
「大切な花なのだろう?」
「幸せのお裾分けです!
奈津子ちゃんのお母さんも探してきてくれたし!」
「ありがとう。なら、俺はこれをあげよう」
そう言って彼が差し出したのは、先程の万華鏡だった。
彼の手から万華鏡を受け取ると、カランと音が鳴った。
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作者名:狐姫 | 作者ホームページ:https://mobile.twitter.com/kohime_yume
作成日時:2023年9月17日 0時