可惜夜の花野2 (ページ19)

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69.いつか、ページ19

「楽しかった〜」

「うむ！俺もだ！

　このような素敵な場所に連れて来てくれてありがとう！

　この先忘れることはないだろう」

「ふふっ。それなら良かったです。

　あっ！そうだ！そろそろケーキ屋さんにいかないと！」

「ん？何だ？」

「クリスマスケーキを予約していたんです！

　杏寿郎さん、急ぎましょう！」

　私は彼の手を引いて走り出した。

　大きな手の温もりを感じながら、

　予約したケーキを思い出して思わず笑みがこぼれる。

「どうした！？そんなに急ぎなのか！？それなら…！」

「えっ！？わっ！！！」

　急に身体が宙に浮いて軽くなった。

　一瞬状況が理解できず、頭が混乱したが、

　彼の顔を見上げていることで

　次第に今自分がどんな状態なのかが分かった。

「きょ、杏寿郎さん！下ろしてください！！」

　すれ違う人々の視線が…！

「重たいですし…！！」

「何も心配いらない！急ぎならこの方が速い！」

「まあ、確かに私は足が遅いですし…」

「ははは！誰にでも得意不得意はあるからな！」

「も〜！！否定はしてくれないんですか！！」

「はははっ！」

　むすっとした私は足をバタバタとさせてみたが、

　彼の体勢は全く崩れなかった。

「ほら、車が見えて来たぞ！」

　あっという間に駐車場へ着いてしまった。

　時計の針は19時25分をさしていた。

　20時までに受け取りの約束をしているので

　何とか間に合いそうだ。

　車のエンジンをつけ、

　ゆっくりとアクセルを踏んで発進した。
　

「杏寿郎さんのおかげで間に合いそうです」

「そうか！それは良かった！

　急ぎの時はいつでも頼ってくれ！車には勝てないがな！」

「ふふっ。ありがとう」

　少し車を走らせると、

　フロントガラスに大きな白いものが当たり始めた。

「雪だ…！杏寿郎さん、雪が降って来ましたよ！」

「うむ！風情があって良いな！」

　ホワイトクリスマスだ。

　ケーキ屋さんに着くと、

　駐車場では子どもたちが「雪だ〜！」とはしゃぐ様子を

　父親と母親が笑って見ている。

　そんな温かな場面を見て

「家族っていいなあ」

　と、自然と言葉が口から出ていた。

「君ならいつか幸せな家庭を築ける」

　助手席から優しい声が耳に響いた。