64.明かされる心 ページ14
「杏寿郎さんが
私の前に現れてから、このキャンドル…
蝋燭が灯ったように本当に温かくて。
辛い時でも心に灯火があるから頑張れる。
心の拠り所みたいになっています」
「そうか!それは良かった!」
できればその灯りのそばにずっといたいのだけれど、
そんなことを口にするわけにはいかない。
じわっと涙が浮かんできた。
いつかは消えてしまう灯りと知りながらも、
その温かさを知ってしまった私は
あなたがいなかった頃にはもう、戻れない。
「どうした?」
その優しい声を懐かしむ時がいつかは来るのだろう。
寂しいなあ。
そうなる方が杏寿郎さんにとっては良いはずなのに…
自分がすごくちっぽけに感じちゃう。
「いえ!これ、元の時代にも持って帰ってくださいね」
「うむ。これがあれば、
元の時代でもいつでもAさんをそばに感じられるな!」
「え!?」
不意にそんなことを言われ、一気に顔が熱くなった。
「そんな…!わ、私のことなんて忘れて構いませんから、
できるだけ幸せな時…を…」
恥ずかし紛れにそう口にしてしまった。
思ってもいないくせに。
覚えていて欲しいくせに…
杏寿郎さんを見つめると彼の瞳が潤んだ。
「あ…えっと…」
「君を忘れることなどできまい。
厚かましい願いかも知れぬが、
どうか君も忘れないでいて欲しい」
濡れた瞳と微かに震えた声が彼の心を教えてくれる。
「たとえ離れたとしても、Aさんが覚えていてくれている
ただそれだけで俺の心は満月になる」
「杏寿郎さん…」
こんなにも素敵な言葉を、これから先、
私は他の誰かにもらえる日があるのだろうか。
彼の紡ぐ言の葉のひとつひとつが美しくて、
炭酸が弾けるように私の心に当たっては消えていく。
「絶対に忘れない!」
勢いよく言う私に
彼は眉を下げ、安堵したように微笑んだ。
スノードームを作り終えると、
デパート内にあるレストランで昼食を食べて外へ出た。
◇
夕暮れ時になると、薄い三日月が空に浮かび始めた。
街路樹は青い電飾で彩られていて幻想的だ。
その綺麗な街並みの中を
車を走らせて目的地へと向かう。
クリスマスの街は家族連れやカップルで溢れていて、
寒さからか、自然と互いの距離は近くなっている。
チラッと彼を盗み見ると、
ニコッと満点の笑顔に胸を打たれた。
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作者名:狐姫 | 作者ホームページ:https://mobile.twitter.com/kohime_yume
作成日時:2023年9月17日 0時