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51.【過去】秋祭りの日 ページ1

 高校3年の秋の頃だ。


 土曜日の課外授業を終えた私は、

 手に有り余るほどの花束を抱えて走っていた。


 揺れる花から香る匂いに期待を膨らませていた。


 茜色に染まる空

 遠く聞こえるお囃子の音

 その日は秋祭りの日だった。


 今日、お母さんが帰ってくる。


 その当時、母は心の元気をなくし、

 生家で療養をしていたため、3年ほど離れて暮らしていた。

 はじめは近くにいたのに気づいてあげられなかった自分を

 責めることもあった。

 
 正直、寂しかったし心細かった。


 けれど、もうそれも全て気にならないくらいに

 今の私は嬉しい気持ちでいっぱい。


 闘病を終えて、今日、母は家に帰ってくる。



 父親からもらったお小遣いを貯めて買った大きな花束。

 花が好きなお母さんに渡すため、駅前の花屋で買ったのだ。


 家に向かう途中

 土手沿いにはたくさんの屋台が並んでいて

 秋の花火を一目見ようと、大勢の観客で賑わっていた。


 早く帰りたい。


 今の私は花火なんかよりも、

 一刻も早く家に帰りたい思いだった。



 土手からだと混んでいて時間がかかりそう。

 少し遠回りだけれど、下の川沿いから行こう。


 秋は夏に比べてすぐに日が落ちる。


 あっという間に辺りは暗くなり始めていた。


 月が浮かぶ空の下、川にもまた、光が宿る。

 その川沿いには草花が風に踊っていた。


 それがあまりにも綺麗で、ぼうっと見つめていると、

 ドンッと心臓を叩くような花火の音が聞こえ始めた。


 いけない。急がなくちゃ。


 そう思って再び歩き始めた時、

 迂闊にも人にぶつかってしまった。


 相手の持っていたヨーヨーが地面に落ちて

 弾けて消えてしまった。


「ごめんなさい!…あ」


 そこにいたのは小学生くらいの女の子だった。


「ヨーヨー…」


 彼女の目には涙が溜まっている。


「ごめんね。本当にごめん。怪我はない?」


「うん。私もごめんなさい。よそ見して走っちゃった…

 あのヨーヨー、お母さんが買ってくれたんだ」


 お母さんが…


「そっか。…お母さんはどこにいるの?」


「お母さん?あ…えっと…あ…いない…

 お姉ちゃんどうしよう。私またやっちゃった」


「どうしたの?」


「いつも一つのことに夢中になると迷子になるの…

 お母さんにいつも気をつけてって言われているのに」


 大きな瞳に溜まっていた涙が頬を伝った。

52.【過去】引いては戻るヨーヨー→



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設定タグ:鬼滅の刃 , 煉獄杏寿郎 , 夢小説   
作品ジャンル:アニメ
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作者名:狐姫 | 作者ホームページ:https://mobile.twitter.com/kohime_yume  
作成日時:2023年9月17日 0時

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