第171話 ページ25
「完全なる陽、完全なる陰というものは存在せん。その中にはわずかに対を為すものが必ず混じっておる......陰の中に混じる陽の気は時として様々な呼び方をされる.......」
蘆屋道満はどこか遠くを見つめ、その瞳に映るモノは何なのか。紅緒に伝えるように口を開く。
「ある時は″希望″ある時は″夢″_______またある時は″愛″」
道満が紅緒の手にそっと握らせたものそれは、ろくろにもらった桔梗の髪飾り。
「全てを捨てた者には力は宿らぬ。最後の最後まで人として生きることを諦めなかった者に───────大切なものを見失わなかった者にこそ、太陰の魂は微笑むのだ」
──────────
「私.....は何のため.......に生まれて.......きた.....の」
「貴様それでも人間かっ!十なんねんも生きてきてそんなこともわからぬのかっ!!?お前が生まれてきた理由はなっ」
涙を流す紅緒に千怒は言った。
「人として生き、人として死にっ人として幸せになるために生まれてきたのじゃっ!″太陽″と出逢い恋をし愛を育み家族を持つ!人間が人間として享受する。当たり前の幸せを手にするために生まれてきたのじゃ!!」
人間にとっての当たり前であることを。
──────────
千怒に言われた言葉は紅緒に生きる意味を思いださせた。
桔梗の髪飾りを握りしめる紅緒に、道満は光の指す場所を指差す。そこには幼き日の紅緒とろくろが出逢う光景が映し出されていた。
「会ってた........私。ろくろ......会ってたんだ(そう、ろくろだったらきっと受け入れてくれ......る。私が.......どんなに醜い姿になろうと如何に過酷な運命を突きつけられよう.......と)」
思い出すのは島にいるであろう愛する者の姿。
一緒に乗り越え、共に前を向き、支えてくれる存在。
紅緒の《太陽》。
紅緒の大切な愛おしい人。
「(ろくろ.......ならきっと真剣に話を聞いてくれ.......る。どうすればいいか一緒に考えてくれる────きっと)頑張ったねと言って微笑みを向けてくれる」
紅緒がろくろを思っている時、道満が一つ頼み事をしてきた。
「..........我が子孫よ、一つ頼みがあるのだが......」
「?」
その表情は懐かしそうで少しの悲しみを浮かべていた。
36人がお気に入り
感想を書こう!(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
れい(プロフ) - コメント失礼します。オリフラが立ったままになっているので、フラグ解除をお願いします。 (2021年8月19日 16時) (レス) id: d1cecbd3a2 (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名:夏菜沙 | 作成日時:2021年8月9日 23時