なんとなくで生きてるタイプのヴィラン【死柄木弔】 (ページ16)

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荼毘さんが肩を震わせながら笑っている。一方の死柄木さんは赤い瞳を大きく開きながら私の発言に驚いている様子だった。黒霧さんは「パンケーキ……？貴方が？」と一番わかりやすく動揺している。

　こうなるのも当たり前だと思った。普段の私なら絶対口にしない言葉ランキングトップ５に入る。
　しかし状況が状況、やむを得ない。

「パンケーキですか？」

「……はい」

　すると一拍ほど開けて、トガさんは「いいですねぇ、パンケーキ！！」と言い、材料を用意してほしいと黒霧さんにお願いしていた。
　黒霧さんは動揺しつつも準備を始めてくれている。

「意外です、貴方は自分から何かしたいとは言わない人かと思っていました。
　これもやっぱり私が友達だからですか？」

　ニコニコ嬉しそうにそう訊ねてくるトガさんに「はい」とヤケで返した。そしたら更に嬉しそうにトガさんは笑う。
　後戻りはできなさそうだ。

　そんなこんなで始まったパンケーキ作り。
　とは言ったものの、パンケーキなんて代物全く作ったことがなかったのでかなり手こずってしまった。
　そんな私に反してトガさんは慣れた手つきでホイホイと作業を進めていく。昔母親と作ったことがあるらしい。

　トガさんはホイップクリームやチョコペン、フルーツを可愛く盛り付けていき、お店で売っていそうなクオリティ。私はデコレーションをしたら絶対に失敗そうだったのでプレーンで終わらせようかと思ったが、トガさんは「こうした方がもっと可愛いです！」と言って手伝ってくれた。
　ヴィランとしてじゃなくて普通の女の子として生きていればもっと別の人生を歩めていただろうに、勿体ない。

「ね、カァイイでしょ？」

　人を殺めたことがあるとは思えない程の無邪気な笑顔。悪の道に身を置いているだなんて到底思えない。

　トガヒミコという少女は私が思っていた以上に普通の女の子なのかもしれない。ただ人より少しズレた価値観があるだけ。
　トガさんがあまりにも普通の女の子で、あまりにも笑顔で接してくるせいで調子が狂う。

　今までの人生、私に対してこんなに話しかけてくれる女の子はいなかった。
　もしも私とトガさんがヴィランになるよりももっと前に出会っていたのであれば、何か違っていたのだろうか。お互い、違った未来があったのだろうか。
　よくわからない。

　ただ、一つだけ言えることがある。

「……案外、悪くはないかもしれない」