あなたに夢中。Ⅰ (ページ36)

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Yoshinori side

流星がパタパタと出て行ったあと、時が止まったかのように静かになるレッスン室。

静寂を破ったのは、流星の後を追ったのか、大晴が出て行く音やった。

リ「…気づかんかったな、俺ら誰も」

佐「Aちゃん、今までこんなことなかったですもんね…」

末「気づかせへんようにしてたんかな」

小「いわゆる生理痛…やんなあ」

俺らには二度とわかることのない痛み。健康な女性なら当然ある、月に一度のこと。

Aにも、もちろん来ていたと思う。

でも今まで一度だって、「痛い」とか「だるい」とか、あの子の口からは聞いたことがなかった。

やからって「気づかんかった」は、うかつすぎるというか。

正「情けな…」

もしAが、わざと気づかせへんようにしていたんやったとしたら。

そうやったとしても、気づいて気づかへんふりをしたり、さりげなく気遣ったりすることはできたはずや。

『YOUたち、Aのことを頼むよ。あの子は普通の女の子だからね』

関ジュ全員が言われた、大切なあの人の言葉を思い出す。

「頼むよ」「普通の女の子」という、曖昧すぎる言葉。

でもその答えは、「過保護にしてやれ」でも「女扱いするな」でもなくて

「あの子がつらいときにそばにいてやってくれ」という、簡単なものやったはずや。

正「もう流星か大晴が用意してるかもやけど、俺、あったかいもん買ってきます」

末「せやな。俺も鎮痛剤買ってくるわ。あのかんじやと持ってなさそうやったし、ストックの分も」

リ「晶哉、末澤に着いてったって。正門、俺も一緒に行くわ。小島はここにいて。Aが戻ってきたら、大晴と一緒に笑かしたれ」

こういうときのリチャくんは、かっこええ。Aが誰の顔を見たら1番安心するかを、よくわかってる気がする。

リチャくんとレッスン室を出てコンビニに向かい、カイロとAが好きなチョコレートと、あったかいお茶とあったかいレモンティーとあったかいコーヒーとあったかいカルピスまでカゴに入れたところで、リチャくんに「正門、落ち着いて」と言われた。

今頃、Aはなんて言うてるんやろか。大晴にギャグで笑わせてもらったり、流星にお説教でもされてるんやろか。

たった徒歩3分の距離が、ものすごく長く感じた。