手のなる方へ 6

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気力も体力も、ある方だと思った
だけど、それとは関係なしに、どうにもならない事もあると知った


自分を取り囲むのは、闇と静寂
唯一だった光もとうとう切れ、自分がいま“ここ”に存在しているかどうかさえも分からなくなりそうだ


＿＿後悔、先に立たず

今更、何もかもがもう遅い
どう頑張っても、自分ひとりじゃ解決する事はできない



「………ふふ、」


“手詰まりだ”
そう思ったら溢れ出てきたのは、この状況下で出てくるべき感情とは全く逆のモノ
折り曲げた膝に顔を埋めると、今までの事がまるで走馬灯のように脳内を巡った

この世界に来た時のこと
この船に乗った時のこと
“父さん”と呼んだ時のこと
“兄”“姉”と呼んだ時のこと
家族の輪に入れた、あの時のこと＿＿


一通り巡った後の感想は
“悪くなかった”
短い時間ではあったけれど、楽しかった

このまま人知れず海に流されてしまっても、悔いはないかも知れない

否、あの人達なら海に流されても死ぬ気で探して見つけてくれそうな気がする




＿＿“疲れた”

そう身体が意思表示をすれば、意識はゆっくりと沈んでいく
微かに遠くで音が聞こえたような気がしたが、もうそれを確認する気力もわかない
抗う事なく目を閉じれば、たゆたう波に飲まれるように堕ちていった＿＿…







.








「……時間ね」


普段の喧騒から一変、静寂に包まれる船内
船底にあるこの倉庫では、静けさがより際立つ
時間通りにやってきた男達に目配せをすると、目の前の樽に手をかける
自分達の気配に気付いているだろうが、中から抵抗の声をあげないあたり予想通り体力が限界を迎えたのだろう
半日近く、この中に閉じ込めているのだから無理はない、が



「やっぱり、船尾からか？」

「いいえ。甲板まで運んでる間に誰かに気付かれるわ。大砲の所に運ぶのよ。大砲を外す音くらいなら波の音で気付かれにくいし、この樽なら外した場所から海に落とせる」

「そこまで計算済みかよ。さすがだな」


16番隊の男が笑えば、それにつられるように件の1番隊の若い男も笑みを浮かべる
時間が経って、再び自責の念に駆られているかと思ったがそれは杞憂だったようだ

計画が完遂する喜びと、興奮と、ほんの少しの、不安
全てが終わるまで油断はできないが、それでも見えてきたゴールに気持ちが逸る
あと少し、あと少しで欲しかったモノが手に入るのだ


＿＿その瞬間を、目に焼き付けよう
今までで一番の大舞台
華麗に演じてみせようじゃないか

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