手のなる方へ 6

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「＿＿おいマルコ！いるか！？」


ノックもせずに乱暴にドアを開けた人物に無意識にため息を漏らした
珍しく急ぎの仕事もなく、たまには本でも…と酒も共に準備し、さぁ読むかと本を開いた所でコレだ
こうやって俺の邪魔をするヤツはだいたいいつも同じだ


「…エース。ドアを開ける前にノックしろって何度言ったら理解するんだぃ」

「今はそんなんどうでもいいんだって！！」


“いや、良くねぇだろ”と口を開きかけた所でその言葉は紡がれる事はなかった
エースの後ろから顔を覗かせたのはリナで、その表情は普段は見ない“泣きそうな顔”だった


「…なにか、あったのかぃリナ」


そう問えば、その端正な顔はさらに歪められた
今にも溢れ落ちそうな涙を堪えながら、リナは震える声で答えた



「…… Aが、Aがいないんです」

「は？」

「日中は私も… Aも仕事をしてて会う事は少ないんですが…お風呂だけは、一緒に入ろうって二人で決めてたんです。
でも、今日は時間になっても来なくて…部屋に行ってみたんですけど、部屋に戻った気配がなくて…！」

「リナは夜にAが俺の部屋に来てる事知ってるしな。こっちにいるんじゃないかって来たんだけどよ…」

「…エースも、Aに会ってねぇって事かぃ」


コクリ、とエースが首を縦に振るのを見ると同時に自身の眉間に皺が寄るのが分かった

＿＿どうやら、一番恐れていたことがとうとう起きてしまったようだ



「エース。この事を他には誰が知ってる？」

「いや、まだ誰にも言ってねぇ。まずはマルコに報告しねぇとと思って」



“いい判断だ”
そう思いながら手に取ったのは船内用の電伝虫
ダイヤルを回し二度ほど鳴らしてから切ると、エースがそれを不思議そうに見ながら首を傾げていた


「…？マルコ、なにやったんだ？」

「コレが鳴るのは限られた人間だけだ。まずはソイツらにこの件を伝える。で、お前ら二人はとりあえず普段通り振る舞っててくれ」

「は？探さねぇの！？」

「誰が首謀者のスパイか分かんねぇんだ。無駄に騒いで尻尾掴めねぇのを避けてぇんだよぃ。…いや、そうだな。“猫が紛れ込んじまったらしいから、見つけたら捕まえねぇでそっと教えてくれ”とでも言っておけ。それで、分かるヤツには分かるよぃ」


“分かった！”とエースはリナを連れ、部屋を出て行った


あくまで冷静に
エース達には普段と変わらないよう振る舞った
だがその内では、腸が煮え繰り返るほど怒りが満ちていた

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