#51 ページ11
一瞬だった。
ほんの一瞬だけ、しげの体温に触れた。ただ、それだけ。
でも、それだけでも、俺には、
「…神ちゃん？え、な、泣いてるん？ごめん、嫌やった！？」
しげの焦った顔。
俺の溢れた涙を指でぐいっと拭って、慌てたように引き出したティッシュを俺の唇に走らせる。
ぐしぐしと紙が当てられても、しげの感触は離れないどころか、染み付いていくようで。
「ごめん、神ちゃんのこと好きやなって思って、止まれへんかった…、ほんま、ごめん、俺どうしよ…」
首を振って、違うと伝えようとしても、どうにも止まらない涙。
それが流れるたびに律儀に拭ってくれる忙しないしげの手首を掴む。
「ちゃうよ。そういうんじゃないから、大丈夫。ちょっと、びっくりしてん…」
しげとのキス。
俺には、あまりにも幸せすぎて、残酷すぎた。
一度、頬に口付けられたときに思ったんや。
ああこれ、唇にされたら、ほんまに引き返せなくなるって。
好きという感情が、色褪せなくなってまうって。
「ほんま俺、最低なことして…」
「やから！大丈夫やって！な？もう、しげのが泣きそうな顔してるやん」
しげが首を振ると、黒髪も合わせて揺れる。
「神ちゃんの泣き顔、見たくないねん…」
「何でよ、別に、」
「良くない。惚れた相手の泣いてる姿見たい奴、居らんて。大好きな人には笑ってて欲しいに決まってるやん」
…そうやな。俺も、しげのこと泣かせたくないわ。
やから今から俺が言うのは本当半分、嘘半分。
「あんな、これ嬉し涙！びっくりしたのもあるけど、嬉しくて泣いたの。言うの恥ずかしいんやから、察しろ。あほ」
きっと、他の人から見たらわからないくらい、ほんのちょっとだけ。
泣き顔が、本気でしんどそうに見えてもうたんやろな。
しげにだけは、わかってまうんやろな。
でも頼むから騙されて。
「神ちゃん…、」
まだ何か言いたそうな唇を、強引に塞ぐ。
「お返し。これでしげも泣いたらおあいこやで」
「何？俺の泣き顔見たいん？」
「…見たくない。好き、やから」
「っあー、もう！神ちゃん！」
ぎゅーっと抱きつかれて、そのままぐりぐりと頭を肩に押し当てられる。
それにならって俺も、そっとしげに体重を預けた。
顔が見えないのを良いことに、もう一度涙を流しながら。
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ナナセ(プロフ) - かこさん» コメントありがとうございます◎ ぜひ次回作もお付き合いください！！ (2021年2月19日 13時) (
レス) id: 4f931bc539 (このIDを非表示/違反報告)
かこ(プロフ) - 完結おめでとうございます（ ; ; ）とっても面白かったです！次回作も楽しみにしてます(^^) (2021年2月19日 12時) (レス) id: 6e72dd3f11 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：ナナセ
| 作成日時：2021年2月2日 10時
