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 俺みたいな貧乏学生の話なんて、誰も信じないんだよ。
 
 
 「 私の事、騙してたの? 」
 「 そんなつもりはなくて、何時かは話す予定だった。だけど、タイミングが分からんくて。同棲がスタートしちゃったし、後戻り出来ん気がして、怖くて、言えなかった。 」
 「 怖いって……何にそんなに怯えてるの? 」
 
 
 偶々、彼処に居た。嫌な声がするとは思っていたけれど、可愛い野良猫の尻尾に着いて行ってしまったのが悪かった様だ。目が合った時にはもう、息をしているかどうかも分からなかった。慌てて駆け付けて脈をドラマの見様見真似で測ってみたけれど、上手く測定出来なくて、本当に死んじゃったのかと思って焦った。でも、口元に耳を近付けると、弱々しい呼吸をしていたので、直ぐに救急車を呼ぼうとしたら、見付かった。俺が、悪者になった。
 
 
 「 引っ越そうか。こんなに色々書き込まれてたら、何時家に来られても可笑しくないし。危ないし。 」
 「 ごめん。俺の所為で、迷惑掛けて。本当に、ごめん。 」
 「 此方こそ、利用しててごめん。誰か知らない人と結婚するより、知ってる人と結婚する方がストレス無いからショッピの事を利用しているだけだし。お互い様って事で、上手くやっていこうよ。愛し合ってる盲目なカップルより、相棒カップルの方が上手くいくって。 」
 
 
 Aは俺の手を握った。温かかった。握り返す権利がないと思い、何もしなかった。ただひたすらに、心が茨の中に収まっていく音が、俺にだけ聞こえていた。
 
 
 「 もう、此処まで来たら逃げられないから。親にも挨拶したし、諸々、余計な事は上手く誤魔化したし。結婚式の予定も組まないといけないから、忙しくなるよ。覚悟しておいてね。 」
 
 
 トンネルから抜けると、Aの声が風によって聞こえ辛くなる。覚束無い足元のまま、どんどん先に行くAを追い掛けるのに必死だった。


 「 ショッピ、言ったよね。俺と居ると幸せになれないって。 」


 Aから交際の申し出があった時、そんな話をした気がする。覚えてるんだ。女性の記憶力は凄いな。


 「 私、幸せになる為にショッピを利用してる訳じゃないから。利益の為だけだから。勘違いしないで、私は別に幸せになりたい訳じゃない。 」


 Aは歩みを止め、また此方を見た。次はちゃんと太陽の光に照らされて、瞳の中に色が見える気がする。でも、笑っていないのは分かった。
 
 
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紗枝(プロフ) - ちびさん» こんばんわ。温かいコメント有難う御座います。本当に嬉しいです☺ " はくしき "とても思い入れのある作品です。そんな風に言って下さって、光栄に思います。これからも度々、覗きに来てくれると嬉しいです💐 (5月30日 3時) (レス) id: ed8861063f (このIDを非表示/違反報告)
ちび - この短編集から貴方様の事を知りました。とても文が好きで文字の使い方が好きです。とくに「はくしき」が何か胸にもやっとくるような不思議な気持ちになりましたとても好きです😢✨これからも応援してます。 (5月29日 21時) (レス) id: b1c4d4a663 (このIDを非表示/違反報告)
紗枝(プロフ) - 大神さん» こんばんわ。通知に紛れてしまい、反応が遅くなってしまいました。申し訳御座いません。お優しい言葉、言葉にならないくらい嬉しいです😊 これからも見守って下さると嬉しいです🥰🥰 (5月21日 22時) (レス) id: ed8861063f (このIDを非表示/違反報告)
大神(プロフ) - zmさんの小説を読んでから全ての作品を読ませて頂きました。どの作品も心に刺さりましたが、この短編集が特に好きです。こんなに自分好みの小説を書かれる方に初めて出会い、言葉にならないくらい好きです。これから応援しております。 (5月20日 12時) (レス) @page37 id: 48f5acd833 (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:紗枝 | 作者ホームページ:http:/  
作成日時:2023年5月14日 20時

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