【 wrwrd! 】わたしがいちばん【 短編集 】

¦ ページ5

▶
　
　
　「 それでは、自己紹介をさせて頂こうと思います。今回、皆さんと2泊3日のバスの中の共にする能山( ﾖｼﾔﾏ )Aです。 」
　
　
　あれから暫く経って、鈴名から連絡は来なくなった。結婚式を最後に、もう会わなくなったのだ。だけど、それで良かったと思う。邪魔者が消えて都合が良いのは、お互い様だし。
　
　
　「 トントンさん、お疲れ様です。 」
　「 Aちゃん、お疲れ様。どうやった？ 」
　「 皆、キラキラしてます。やっぱり、この仕事は楽しいですね。 」
　
　
　左手の薬指に銀色の物が消えたトントンさんは、昔と変わらない笑顔で私を見る。私は1号車のバスガイド、トントンさんは2号車のバスガイドなのだ。今まで何度も仕事は一緒にして来たが、鈴名とトントンさんが離婚してからは初めてだった。
　
　
　「 グリーンランド、覚えてます？私も此処にトントンさんと来ました。 」
　「 覚えてるよ。忘れたくても忘れられないからね。 」
　
　
　鈴名は地元に帰ったのだとか。元々、鈴名はトントンさんと同じバス会社にやって来たが、結婚して直ぐに辞めた。鈴名が寿退社した後に、私がトントンさんと同じ会社に転職したのだ。計算じゃない。運命だから。
　
　
　「 バスガイド、良い仕事ですよね。こうして、トントンさんとも出会えたんだから。 」
　
　
　子供達のはしゃぐ背中を見ながら、こっそりとトントンさんの手に指を忍ばせる。ぴくり、と動いたトントンさんの手。でも、誘惑に負けて静かに繋いだ。誰にもバレません様に。誰にも見付かりません様に。
　私は鈴名と違って、赤い薔薇は要りません。欲しいのは、トントンさんだけ。
　
　
　▶

✍ ふぁーすと・きす→←¦

→ 目次へ｜作品を作る｜感想を書く
他の作品を探す