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ar side .
月日は流れ、入社して2年目の冬。
その日は仕事が長引いてしまい注意力散漫になっていたのか、スマホを会社に置き忘れてしまった。それに気付いたのは、電車に乗り込む1歩手前。
「…最悪だ」
少し迷ったが、何かと不便なので取りに戻ることにした。
時刻は23時。会社に辿り着くと、1部屋だけ明かりが付いているのが見えた。自分の部署の2つ下の階だった。
「…伊野尾くんの部署、か」
いるわけないよな…と思いつつも、自分のデスクの上のスマホを手に取った後、明かりが付いていた部署へと足を運んだ。
近付く度に聞こえる話し声。
男性の低い声と、この声…
まさか伊野尾くん…?こんなに遅くまで…?
部署内を覗くと、予想外の光景に目を疑った。
「っや、ぁ、だめ、です…」
『抵抗していいのかな?』
「…ごめ、なさっ…」
涙目で俯く伊野尾くんと、彼のはだけたシャツから覗く肌をまさぐる上司の姿。伊野尾くんのであろうスーツのジャケットは、床に脱ぎ捨ててあった。
…その瞬間、自分でも感じたことのない程の怒りの感情が湧いてきた。
「何してんすか」
そう声を掛けた途端、体をビクつかせ早々に逃げてゆく上司。
「!」
あいつ、若い男性社員に目がないって噂の…
俺も最近ウザイくらいに絡まれてたっけ。
…クズが。
追いかけようかと思ったが、この状態の伊野尾くんを1人には出来なかったし、念のため証拠写真は撮っておいたから、あいつは明日それ相応の処分がされるだろう。
「…大丈夫?」
「ん…あり、がとっ…」
その場に座り込んでしまった伊野尾くんにそう声を掛けた。
…大丈夫ではない、よな…
「…なんで、抵抗しなかったの?」
そんなに泣いて震えてしまう程、怖かっただろうに?
…あいつ、やっぱ1発殴っておけばよかったな。
「……ぁ、有岡くん、が…」
「……俺?」
「っ…俺が断ったら…有岡くんに、同じことするって…だからっ…」
え……
俺の、ため…?
「…なんで…」
「だ、だって…なんか……嫌だったのっ……有岡くんに、嫌な思いして欲しくない、って…思ったから……」
本当に、どこまでもお人好しで
自分より他人のことばっかりで
…苦手なタイプだった。
だけど嫌いにはなれなくて。
寧ろ、胸の奥をくすぐるような、温かくてむず痒い、この気持ちは____
それから数ヶ月後、伊野尾くんから告白された。
その瞬間、気付かないふりをしていたこの気持ちを自覚して、俺達は付き合うことになった。
…そうだ、あの時思ったんだ。
このお人好しで危なかっしくて、放っておけないこの子を、俺が守りたいって。もう絶対、泣かせたくないって。
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にゃるる - 返信ありがとうございます泣泣 新垢待ってますっ!!!またむにこめさんのお話が読める日を楽しみにしております(≧∀≦) (1月13日 23時) (レス) id: 9df1e97525 (このIDを非表示/違反報告)
むにこめ(プロフ) - にゃるるさん» お話気に入っていただいて嬉しいです、ありがとうございます…!アカウント突然消してしまい申し訳ありません。移行先はまだ作っていないので、出来次第お知らせさせていただきますね。ar王子とinも少し加筆修正して載せる予定ですので、もう暫くお待ちくださいm(_ _)m (1月9日 17時) (レス) id: 467faef54a (このIDを非表示/違反報告)
にゃるる - むにこめさんのarin作品大好きです泣 話は変わって申し訳ないのですがTwitterのアカウントが消えてしまったみたいなのですが、移行先のアカウントを教えていただくことは可能ですか?泣 Twitterの方で読んでいた王子arとinのお話もまた読みたくて... (1月3日 2時) (レス) id: 9985c4f555 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:むにこめ | 作成日時:2023年3月19日 15時