Bouquet. 2 ( ar×in shortstory )

＊ ページ25

ar side .



あれは、今の会社に入社したての頃。
初めの1ヶ月間は、新入社員全員集まって研修を受けていた。

その時に受けた"伊野尾くん"の第一印象は、お人好し、不器用、いつもヘラヘラ笑って何にも考えてなさそう。

…正直、1番苦手なタイプ。

真逆のタイプの俺達は、個人的に話すことは殆どなかった。


まともに話をしたのは、1ヶ月後の研修最終日。
研修終わり、打ち上げも兼ねて同期全員で飲むことになった。

お酒も入って盛り上がる中開かれたのが、ゲームで負けたやつが酒を一気飲みするっていう悪ノリ。

伊野尾くんが負けて、ビールを一気飲みした後もまたヘラヘラして。そんな姿がなんだか少し気に触った。


だが、それから数分後、伊野尾くんが口元を抑えトイレに駆け込む姿が見えて…何となく気になってしまった。

トイレの扉の前へ行くと、案の定中から苦しそうな声が聞こえた。暫くして扉が開き、俺の姿に気づいて焦った様子の伊野尾くん。


｢…酒、強くないんだ？｣

｢ああ〜…あははっ、バレちゃった？…でも、あそこで断ると、皆の雰囲気悪くなっちゃうから…｣


…やっぱり見た目通り、お人好しで、不器用で。


｢…有岡くんは、俺のこと心配して来てくれたの？｣

｢は…いや、俺は別に…ただ…無理、してるんじゃないかって｣

｢…ふふっ、優しいんだね、有岡くん｣


…伊野尾くんは、どちらかというと苦手なタイプだ。

でも、嫌いにはなれなくて。
何故か気になって目で追ってしまう。

…何より、いつも皆の前で見せる表情とは違う、そのふにゃふにゃと柔らかい笑顔が目に焼き付いて離れなくて…


｢俺、もっと有 岡くんと話しておけばよかったな｣

｢…｣


俺もそう思う、なんて口が裂けても言えなかった。


翌日、新入社員が所属部署を発表されて、部署が違う伊野尾くんと話す機会は殆ど無くなってしまった。



.

＊→←モモ 3

→ 目次へ｜作品を作る｜感想を書く
他の作品を探す