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何が起こったのか、有岡は理解が直ぐに追いつかなかった。
歩いていた筈なのに、いつの間にか、後ろから伊野尾に抱き締められていた。
有岡より数センチ高い伊野尾の腕の中。
身体だけでなく、心までも、有岡の全てが包まれているような感覚がした。
「…なん、で…」
「っ…行かないでっ…!」
耳元で、伊野尾の悲哀に満ちた声がそう訴える。
有岡の中の何かが、物凄い勢いで込み上げてくるようだった。
「…ずるいよ、有岡くんっ…」
「いのお、く…」
「っ俺の身体も感情も無茶苦茶にして、今更自分だけ逃げようなんて……そんなの、ずるいよっ……」
"…元カノのこと、今でも信じられないし、正直ショックだよ。有岡くんってほんと最低だって思うよ。
だけど……有岡くんとおんなじくらい、俺も最低だから。
元カノに申し訳ないとか、有岡くんがいなければ別れることもなかったかも、なんて…そんなのもうどうだっていい。
今、有岡くんが離れていっちゃう方が、何よりも嫌だから……"
「っ…俺の心、奪っておいて……俺から、離れるなんて許さない、からっ……」
有岡の肩が、伊野尾の涙でじわじわと濡れてゆく。
伊野尾の体温、匂い、そして想い…全部全部、有岡にとって堪らなく愛おしかった。
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作者名:むにこめ | 作成日時:2022年11月28日 22時