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「それで、体調はどう?」
「え…ああ、うん…朝よりマシ…」
「…そっか」
"…なんで、そんな安心した顔すんの…"
いつもと違う有岡の姿に胸がざわつく伊野尾。有岡はそんな伊野尾に気づく筈もなく、バッグを手に取り立ち上がった。
「それじゃ、俺帰るね」
「え…今日は、何もしない、の…?」
"やばっ…何言ってんだよ俺…!!"
思わず口にしてしまった言葉に後悔し、口元を両手で抑える伊野尾。有岡はキョトンとした顔でそんな伊野尾を見つめる。
「伊野尾くん体調悪いのに、無理矢理する訳ないじゃん。
…悪化したら、俺が困るし…」
「…え」
有岡は小声で言ったつもりだったが、最後の言葉も確かに伊野尾の耳に届いていた。胸の奥が小さく震える感覚がする。
「っじゃーね、また連絡するから。ゆっくり休んでね!」
ふと時計を見ると、針は20時半を指していた。
"嘘…!?大学にいたのが14時頃だったから…それまで、ずっと傍にいてくれたの?
…有岡って…本当は…"
「…あ、お仕置きはまた今度ねっ!」
……
「…ほんと、さいてー」
有岡が扉を閉めた後、小さくそう呟いた伊野尾。
しかしその言葉とは裏腹に、口元が少し緩んでしまっていることに本人すら気付いていなかった。
"…本当は、良い奴なのかも。有岡って"
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作者名:むにこめ | 作成日時:2022年11月28日 22時