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31話 ページ31

「……だから、ありがとうね。」

「…え?」



Aのお母さんは涙を拭うと僕にそう言った。

最初は何に対してのお礼なのかわからなくて混乱してしまった。



「私、怖かったの…あの子があの人のことを思い出してしまうのが…“父親”っていう存在がトラウマになってしまうのが…。ならいっその事、忘れたままでいさせてあげれば良いんじゃないかって思ってた。

でも、違った。あの子は真実を知りたがっていた。あの子は強いのに、真実を知って壊れるほど脆い子じゃないって私が一番わかってたはずなのに…。あの子を守ろうとして、逆にあの子を現実から遠ざけようとしていた。

無一郎君、貴方にそれを気づかされたの。だからね、ありがとう。貴方に再び出会えてあの子は救われた。私も救われた。ありがとう、ありがとう…。」



Aのお母さんは何度も頭を下げた。



「あの子に真実を全て話すわ。あの子の為にも。そして、きちんと謝る。今まで真実をひた隠しにしてきたことを。」



許して、貰えるかしら…と自嘲気味に笑った。


きっと彼女も彼女なりに悩んで苦しんでいたんだ。嘘をつき続けることにきっと罪悪感を抱き、疲弊していたんだ。

そしてその心の重荷を軽くできるのは、きっとAだけ。



「大丈夫ですよ。Aが心優しいってことは…誰よりも、お母さんが知っていることじゃないですか。」



Aのお母さんの瞳から、止まりかけた涙がまた堰を切ったように溢れ出した。


そうよね、そうよね…と繰り返しながら。





「ありがとう、無一郎君。」



ある程度泣き止んで顔を上げたAのお母さんは優しい微笑みを湛えていた。

ああ、やっぱりAは貴方の娘だ。
その優しい笑顔が、そっくりだから。








.








.








「じゃあ、僕は一旦出ますね。」

「帰るの?」

「多分戻って来ます。
…ただ、これは二人きりで話した方が良いと思うので。」

「……ありがとう。」



Aはきっともうすぐ目覚める。
これは僕がいない方が良い。二人きりで話すべきだ。

僕は近くの喫茶店で時間を潰すことにした。



でも、その間も。
やっぱりA達のことが気がかりでろくにコーヒーなんて飲んでいられなかった。

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白霞(プロフ) - いちごアメさん» 応援のお言葉ありがとうございます。面白いとも言って頂けて嬉しい限りですございます。最後まで閲覧頂きありがとうございました! (2020年8月19日 17時) (レス) id: 7828c1c33e (このIDを非表示/違反報告)
いちごアメ - とっても面白いです!!これからも頑張ってください (2020年8月18日 21時) (レス) id: 77a7bd0b14 (このIDを非表示/違反報告)
白霞(プロフ) - つぶやき星のつぶやき女さん» そんな風に言って頂けて光栄の極みでございます!素晴らしい作品だなんて畏れ多い…!最後まで閲覧頂きありがとうございました! (2020年8月18日 12時) (レス) id: 7828c1c33e (このIDを非表示/違反報告)
つぶやき星のつぶやき女 - す、素晴らしい!泣きました。とても面白い、悲しい?ような気がして面白かったです。(伝わらないような気がする。語彙力無くて、すいません!)とにかく素晴らしい作品でした。お疲れ様でした。 (2020年8月17日 21時) (レス) id: 9c9562d775 (このIDを非表示/違反報告)
白霞(プロフ) - くれーぷさん» そのように言って頂けて嬉しい限りです!こちらこそ閲覧ありがとうございました! (2020年7月28日 19時) (レス) id: 7828c1c33e (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:白霞 | 作成日時:2020年7月26日 0時

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