もしも夢で言えたなら【短編集】 (ページ8)

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距離と違和感：青ページ8

色々なことに思考が追いつかず、何に泣いているのかも理解できなかった。
小さい頃からそばにいてくれた男に裏切られたことが悲しいのか。
もしかしたら自分が死ぬかもしれないという恐怖心か。
訳がわからなくなった私は身体を震わせ俯いた。

怖い、悲しい、悲しい、怖い。

そんなとき、心から安心させるかのような優しく低い声が耳に届く。

「A」

それにつられるかのように顔を上げた。
すると、あの日のように兄者さんがとても優しく微笑んでくれていて。

「大丈夫だから、目を瞑ってろ」

すぐに終わらせる。
その言葉だけで、不思議と安心できて。
目を瞑ると、ひとつだけ雫が落ちたきり、もう涙は出なかった。
閉じた瞬間の銃声に、私は肩を強張らせた。

「な…ァ…」

小さく呻くような声にゆっくりと自由になっていく自身。
無抵抗だった自分の身体はそのまま傾きかける。
でもそれを誰かが抱きとめてくれた。
目を開ければ兄者さんがいて、彼も安心したような顔を見せた。

横を見ようとしたとき、兄者さんがそれを制した。
おついちさんと弟者さんが男に近寄り、誰かと連絡を取りながら処理を始めていたようだ。
見上げるように彼の顔を見れば、その表情は曇っていて。

「…悪ぃ、ちゃんと守れなくて」

そう言う兄者さんに、私は首を振った。

「守って、くれたじゃないですか」

さっき優しく声をかけてくれたから、安心できたんです。
言った言葉に、彼は驚いた顔をしていた。
そして腕を解放したかと思えば、優しい力で引き寄せられ、兄者さんの腕に包まれた。

「これからは、ちゃんと傍にいる…その、なんだ…」

顔を見れば、少しだけ頬を赤らめていて。

「…これからも、傍にいてください」

無意識に彼の服を握り締め言うと、兄者さんはしっかりと頷いてくれた。
感じていた距離と違和感は、いつの間にかゼロになっていた。