Remember：青 ページ12
｢別れよう｣
震えそうになる唇、それを何とか耐えながら、Aは目の前にいる男性…兄者を真っ直ぐ見つめた。
勿論いきなりの言葉に、彼は目を見開いていて。
｢は…?｣
わけがわからないと言わんばかりに彼女を見る。
何も言わずに兄者の言葉を待ちただ目を伏せる。
｢な、に言ってんだ…｣
動揺を隠せない彼の声に震える指先を握り締める。
｢からかってんなら、もう少しマシな嘘に…｣
｢嘘じゃない!!｣
怒鳴る彼女を見た兄者は再び目を見開く。
｢嘘じゃ、ないんだよ…｣
勢いでテーブルを叩き立ち上がったAはそのまま言葉を紡ぐ。
｢嫌い、になったの…兄者とはもうやっていけない、だから…だから…｣
何かに耐えるように唇をきつく結んで、鞄を雑に取った。
｢…さよなら｣
バタバタと慌ただしい音を立てながら、Aは姿を消した。
兄者は彼女を追うこともできず、ただその場に座り尽くしていた。
テーブルに置いていた手を握り、状況を理解していくうちにゆっくりと力を込めていく。
嫌いになった?
もうやっていけないから?
｢じゃあ何で｣
数分前のAの今にも泣きそうだった顔を思い出す。
握り締めた手を一度叩きつけると、行き場のないそれを額に当て、震える声で小さく呟いた。
｢何で、お前がそんな面してんだよ…｣
一人残された部屋に、只々静寂が広がるだけだった。
走り続けたAは弾ませた息を整えたあと、目の前にある自分の家の玄関の戸を開けた。
｢おかえり、A｣
優しく声をかけてくれる相手をゆっくりと見上げた。
ただいま、と消えそうな声で答えると、そのまま先程のことを口にする。
｢…今日ね、言ってきたよ｣
｢…｣
｢言ったら後悔しないって、割り切ろうって決めたのに｣
2つの瞳からどんどんと溢れ出す涙。
それを見た相手は彼女に近づく。
｢何で、こうしなきゃいけないのかな｣
｢…A｣
｢どうして私なのかな｣
｢A｣
｢苦しいの、痛いんだよ兄さん…!!｣
胸を抑え悲痛の声を出すAに、彼女の兄は優しく抱き締めた。
彼もまた、悲しそうに顔を歪めていた。
(続)
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作者名：sky | 作成日時：2018年5月17日 23時
