もしも夢で言えたなら【短編集】 (ページ1)

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不安と目覚め：赤ページ1

気づけば目の前には彼だけで。
周りを見渡しても何もない、ただの白い世界に二人きり。

でも、こちらを見ていた彼は、俯き、静かに踵を返しどんどん歩いていく。
離れていく、私のもとから。

「待って…待って、弟者!!」

どれだけ走っても、叫ぶように彼の名前を呼んでも、一向に縮まる気配のないこのどうしようもない距離。

すると彼は足を止め、ゆっくりとこちらに振り返る。

「なんで、どこ行くの、ねぇ弟者!」

「…疲れたんだよ」

静かに呟く言葉に、私は目を見開いた。
このままでは弟者がいなくなってしまう、その不安が全身をかけめぐる。

「もううんざりなんだ…じゃあな、A」

待って、待って…!!
それすらも声にならなくなった私は、音だけ消えてしまった世界で意味もなく叫び続けた。

「…__ …A、A‼」

聞きなれた声が耳に、頭に響く。
目を見開けば見慣れた部屋で、私は呼吸が乱れていて、額には汗が滲んでいる。

「A、大丈夫か…?」

「おと、じゃ…?」

両目から流れている涙なんか気にならず、私は何度も彼の頬を両手で触れる。
いる、ここにいる。
夢…だったんだ。

「弟者…弟者…」

安心した私は再び涙を流した。
何かを感じたのか、弟者は背に手を回し、優しく抱きしめてくれた。

「うん…ここにいるよ」

涙を拭い、手櫛で髪を整えてくれる。
首筋に顔を埋め、安心させるように何度も背中を撫でる。

「…いかないで」

自分でも驚くほどに弱々しく震えた声で言う言葉に、彼はただ黙って頷く。

「まだ日は出てない…一緒に寝れば怖くないから」

自分の胸に私を仕舞いこむように抱きしめ直す弟者に、縋りつくように服を握りしめた。

弟者の声は、言葉は、私を安心させてくれる唯一の魔法だ。

「起きたら、一緒にゲームしよう…出かけるのも良いし、Aとなら何でもいいよ」

子供をあやすかのように、彼は優しく私に触れてくれる。

「もう一度目が覚めたとき、Aが不安にならないように、ちゃんとこうしているから」

「うん…」

「…俺はいなくならないから…安心して、ゆっくりおやすみ」

再び沈みだす意識の中、額にキスを残した彼を感じて、私の脳は完全にシャットダウンされた。