08話 ページ10
閉じている目の下の特徴的な隈を指先で撫で、ふっと口角を上げる。
昨夜、仕事上敵対しているやつと寝た。
FBIの赤井秀一。
腕の立つ狙撃手で、イケメンだが目付きが悪いやつ。
今まで出逢った中でもなぜか興味が引かれたので、思わず遊んでと誘ったのだ。
体の墨を見せても抱くやつは何人かいるが、平静を保ち通常を崩さなかったやつはこいつがハジメテだった。
「……うん?」
ふと、どこからか聴こえるバイブ音に首をかしげる。
俺は着メロを設定しているのですぐ誰かのだとわかる。それが、ひなやかなではないこともわかる。――ならば。
床に落ちているジャケットに手を伸ばし、内側のポケットをまさぐる。
指先に当たった固い感触を握りしめて取り出す。そして、微笑んだ。
「上司か部下か、妻か愛人か……娘の可能性もあるかぁ?」
画面に表示されている、ジョディという名前に様々な予想をする。
画面をスワイプし、スピーカーボタンを押す。秀一の近くに置いて、耳を塞ぐと……
『シュウ―――っ!!』
「うっ」
突然の耳元の怒号に目を見開き、痛そうに耳を押さえる。
隣でクスクスと笑う俺を見ると途端に顔をしかめた。
「朝から元気だな……」
「てへ」
『あなたに比べれば誰だって元気よ』
「お前に言ったんじゃない」
不機嫌に唸る彼に片目を瞑り、愛らしく舌を出す。すると、自分に言ったのだと勘違いした女が口を挟み、それを否定される。
このあとの展開は誰にだってわかるだろう。
『私じゃ、ない?……へぇ、なら誰よ。遅刻するほど仲よしな女なんて、無愛想なあなたにいたかしら?』
面倒くさそうに深く溜息を吐く。お前のせいだぞと言うので、素知らぬ顔をする。
携帯を手に取り、スピーカーを止める。まだ痛そうな耳に当て、会話を始めた。
長くなりそうだと見越してベッドから降りる。窓際に歩み寄り、カーテンを開けた。
毎日となんら変わりない景色だ。
今でも、こうして見下ろす。
なぜだかそれに、今さら感動を覚えているが。
「もう切るぞ」
その言葉に意識を向けると、彼はもう服を纏い準備を終わらせていた。
颯爽と扉へ向かう彼に声を掛ける。
「この辺りは輩が多いから、気をつけな」
気をつける、と早口に言って扉を開ける。いなくなるまでその背中を見ていると、ふとこちらに視線を送る。
その目に首をかしげ、目を丸くする。やはり表情を変えず、言った。
「またな」
……そのただの挨拶がどれだけ重たかったか、俺の顔を見ないで出たお前は、ずっと知らないんだろう。
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