07話 ページ9
―――キスという行為は好きだ。
唇に触れ、舌を入れ、口の中を撫で回し、蕩け合う――唯一熱を感じる箇所といってもいい。
舌は一番敏感だと言うし。
耐えきれない熱に頭が侵され、思考がまとまらない。
何も考えなくて済む、という風ではやはりこの行為を好ましく思う。
それに、相手はちゃんと応えてくれる。
「……舌出せ」
「ん、こへれ……っぁ」
言われて舌を少しだけ覗かせる。すると、舌先を絡めとるようにして、噛み付くような強引なキスをする。
この男はキスが上手い。俗に言う、テクニシャンだ。
口から脳へ伝達する大きな快感と火傷しそうな熱に胸の奥が喜ぶ。
キスで相手の思考を奪う間、さらに感じさせようと気持ちよくなることを手がする。
それも、秀一はちゃんとわかっていた。
耳に優しく触れて、首筋、鎖骨をなぞっていく。なんとも言えないくすぐったさに小さく喘いだ。
「はぁ」
そして、唇が離れる。口内を侵した熱は冷え、物足りないとすぐ欲求が深まる。
もう一度と顔を近づけ、せがむ。しかし、彼の目線が下がり、それは諦めた。
指先が鎖骨に爪を立てるようにして置かれている。ここ、と強く押した場所は馴染みの所だった。
「あぁ、ホクロね。だいたいみんな、そこに釘付けになるんだよ」
「……えろいな」
「よく言われる」
生まれつき鎖骨にあるホクロを、体を見た彼等は「えろい」と口を揃えて言う。
自分ではずっと共にあり、シャワーを浴びるときよく見るから、そうは思えないが。
「跡、つけてもいいのか?」
……それは、予想外だった。
「跡ってここ?ホクロに?」
「ダメならいい」
「いや、そういうんじゃなくて。ここに付けたいやつはいなかったから……あと墨被ってるし、見えにくいよ?」
「勘違いしてもらっては困る。見たいわけじゃない。付けたいんだ」
跡、キスマークというのは見えやすく、そして見てほしいところに付けるものだ。
それに今までホクロに被せて付けたいやつなんて、この男が初めてだ。
「……いいけど」
豆鉄砲を食らった気分、というのをこの時ようやく理解できたと思う。
唇を寄せ、ホクロにキスを落とす。そして強く吸い、綺麗に赤い華を咲かせた。
その行為に喉がひくつき、甘い吐息をこぼす。跡を付けられて思ったのだ。
体に触れている手はまるで、忘れさせないよう……俺に触れた己を刻んでいるんじゃないかと。
「変なやつ」
彼の声は、彼自身にしか届かなかった。――そして、いつもとは違う、眩しい夜明けを迎えた。
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