34話 ページ36
「ウェイターなのに物知りなのな、あんた。ますます気になってきた」
「僕は名探偵の弟子ですよ。知ってます?眠りの小五郎と言われている、毛利小五郎さん。ポアロの上の事務所にいるんですが」
ああ、そういえば窓にそんな名前が書いてあった気がする。いやたぶん俺らの世界でも噂されてるか。
詳しくはかな辺りが知ってるだろう。興味はないが知っておくに越したことはない。
「んー……それで?話は終わり?」
「そうですね。聞きたいことはこれだけですし、否定しないということは肯定なんでしょう?」
「確信してるくせに聞くんだ。性格ワル」
んべ、と赤い舌を出す。小馬鹿にした態度にすら彼はその愛らしい笑顔を剥がさなかった。いや、こんなものでは剥がれないか。
ぞくぞくする。こいつが愛想笑いを浮かべるたび、その表情をべりべりっと剥がしてやりてぇ。
きっと滑稽なことだろう。
いつかあの化けの皮の下を拝みたい。
そう、いつかだ。こいつの真意を吐かせるだけの力が俺にはない。――退屈しのぎにはなるくらいだな…
「俺も大概だけど」
と、鎖骨を押している指先を掴む。それを口元までもっていき、ぺろりと舐めた。輪郭をなぞるように視線を上げるとそれに彼の喉仏が上下した。
満足げに俺は瞳を細める。
唾液で濡れた指を咥え、舌を絡ませる。かわいい顔とは逆に固く細い指だ。ひたすら甘えるようにねぶる。
散々舌で弄び、指を口から離した。ぬらりと濡れた指が輝く。
「どーせハジメテじゃねぇんだろ?だったら相手してくれよ、お坊っちゃん♡」
ぴくりと眉毛が動く。子供じみた挑発に苛立ちを見せた。それは俺と会話してから、初めて見せた感情だった。
唾液まみれの指先が顎を上へ上げる。冷たい色をした瞳はようやく熱を帯びた。
「……美人には棘があるとは言いますが……あなたの場合ソレは毒のようですね」
含んでしまえば毒され殺される――
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