33話 ページ35
夕方。辺りはもう鮮やかなオレンジ色に包まれている時間帯。その色に紛れ、俺は退屈そうに立っていた。
「遅れてすみません」
と、爽やかな声がする。声の主はポアロのウェイターだ。
それまで着ていたエプロンを脱ぎ捨て私服姿で現れた。
夕焼けの色と肌色が相まっているせいか、よく目を凝らしていないと表情を窺えない。これから色々話すってんのにちょっと厄介だ。
「あの二人はいないんですね?」
「ここにはな。帰りたくねぇって鳴きやがるし、離れたとこで待機はしてるけど……何か起こらない限り呼ぶことはねぇよ」
そうですか、と笑う。一見犬のような愛らしさを感じるそれは、今ではひどく偽りのものに見える。
実際俺と会話しているこいつのすべてが偽りなんだろうが。
「まぁ、話と言ってもそんなに長くないんです。ただ聞きたいことがあるだけで」
空っぽの言葉がつらつらと紡がれていく。体の内側からなぞられているような奇妙な感覚だ。つまり――探られている。
「梟夜組と言うヤクザは知ってますか?」
「知ってる知ってる。日本でもとくに危険視されてて……国を守る公安とは昔から天敵同士なんだよな」
「ええ。なぜなら日本のヤクザのトップにいる存在らしいので。その梟夜組の組長についてです」
「うん」
「金髪に黒いメッシュを差し、かつ男でも見惚れてしまうほどの美男……そしてもう一つ」
言葉を区切り、こちらに腕を伸ばしてくる。俺はそれを避けない。――殺気を飛ばしている二人を呼ばない。
彼の指先が俺の襟をはだけさせる。それから浮き出てる鎖骨をなぞり、口元を緩めた。
「鎖骨にホクロがある――それが特徴らしいんですよ、梟夜組組長……天羽Aの」
久々のスリルに腹の奥が熱を孕んだ。
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 163人がお気に入り
この作品を見ている人にオススメ
この作品を見ている人にオススメ
「赤井秀一」関連の作品
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
