12話 ページ14
「――では会合を終わります。皆さん、帰り道に気をつけてください」
長い時間続いた会合を締めると、みんなが一斉に席を立つ。
会合の議題をどう思うか、これからどう動くか、そういうことを口々に話して、帰っていく。
先ほどこちらを敵対視していた初老の男は、俺を横目に舌打ちをして、部屋から出ていく。
「ちょっと帰り道に気を付けるよう言ってきます」
「ひな。そろそろ態度改めねぇと、またかなに可愛がらせるよ?」
「うっ……でも、Aさん……」
弱々しく名前を呼んで、泣きそうな顔をする。しかし今回はさておき、とある組長の元へ歩み寄る。
「む、無視された」
「時と場合を考えないからです」
などと、二人の会話が後ろから聴こえる。それだけで先輩後輩の経歴が知れる。
部下と何か言葉を交わし、部屋を出ていこうとする組長を呼び止める。
「――遠藤さん」
己の名字に振り向いて、ああと目元の皺を深める。
集結した各組長の中でも一番の重鎮。――喧嘩を仲裁し、一瞬あの場の主導権を握った本人。
東京の夜を納める、『双頭組』組長――遠藤左近。
歳は58と、あの中でも一番の歳上でもある。極道としての経歴も、恐怖するほどに凄まじい。
「冒頭はつまらない口論をして、すみませんでした。止めてくださり、ありがとうございます」
「もういいんだよ。昔と変わらない、Aくんを見られたからね」
「はは、お恥ずかしい限りです」
何事もなく会話をするだけでも、彼から溢れている威厳に押し潰されそうになる。
絶対に敵わない相手は誰か、そう聞かれたら迷わずこの人の名を出すだろう。
それにしてもと前置きすると、目尻を柔らかくして、薄く微笑む。
「あの小さかった子供が、ここまで大きくなって。――黒江さんが見たら泣くだろうね」
脳裏に彩りを見せて描かれるのは、悪ガキみてぇに大きく笑う、死にかけの爺さん――
「……どうでしょーね」
遠藤さんの言葉を受け流して、答えを曖昧にする。会話を、無理に終了させた。
彼はやはり、優しい目をして言う。
「泣くよ、きっと。……黒江さんによろしく伝えてくれ」
ぽんっと軽く肩を叩いて、部下を連れて部屋を出る。その背に頭を下げて見送る。
静かになった部屋に取り残されたのは、まだまだひよっ子の鳥ども。
服の上から体の墨を押さえつけ、胸を握りつぶす。……なんの為に此処に居るのか、忘れてしまうな。
『あまっちょろいんだよ、クソガキ。生きてぇと思うんなら、生きる理由を見つけてからにしろ。ねぇーならくたばれ――』
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