クロトの微笑。

【36】 ページ37

―コンコンっ





藤「はい」





朝食を食べてゆったりとした時間



検温も終わって、ギリシャ神話の本を読んでいた。








ノック音がして振り返ると






紙袋を持って立っている最愛の人がいた。







.....記憶がない....フリをしなきゃいけないんだ。





北山さんが教えてくれたギリシャ神話。

見られたらマズイ……
慌てて本を隠した。







……俺は何度北山さんを傷つけたら気が済むんだろう。








悲しい顔、させたいわけじゃないのに…







ずっと笑っていてほしい


ただそれだけなのに。









北「....失礼しますっ...」



緊張した様子でよちよち歩いて

ベッドの横に立った。






北「…何か本を読まれてましたか？」

藤「……あぁ、……まぁ…」

北「読んでいる途中に邪魔しちゃってごめんなさい」

藤「……いえ」

北「……藤ヶ谷さんは、どんな本を読むのかな？今度教えてください」

藤「……はい」


北山さんが優しい笑みで俺を見つめる。



良かった、本の内容はバレていないようだ。

胸をなでおろし、記憶喪失のフリを続ける。




藤「えーっと....北山さん....でしたよね？」

北「あ、はいっ.....」

藤「おひとりですか？」

北「あ、はいっ...あ、これっ！」

藤「ん？」






紙袋の中をゴソゴソして、真っ赤な林檎を出した。







北「シスターが持って行けって」

藤「あ、そういえば横尾さんが、北山さんは教会の
　 神父様なんだって…」

北「はい、小さな教会ですけどね。
　 あ、花瓶あります？」

藤「友達が持ってきてくれたのなら...」

北「借りますね」






腕まくりをして、花瓶を持って病室を出て行った。








部屋に残った大好きな香り





切なくて、甘くて




大好きだ。





クロト様、どうかこの恋を




最期まで見届けていてください。

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