【文豪ストレイドッグス】シャチはイルカを食べるのだ

水族館のシャチとイルカ5 ページ7

「貴様っ！」
頸動脈を絞められる。これ以上ないぐらい素晴らしい裸絞めだ。この拘束を解くのは至難の技だ。
私ならできるが。
だが私は特に抵抗しなかった。
福沢諭吉に害意はあれど殺意は見えない。
別に殺してくれてもい……いや、だめだな。織田作の心中相手はジイドただ1人と決まってるんだ。ここで死ぬ訳にはいかない。
思えば、太宰治が心中に固執するのは、織田作とジイドのあの壮絶な死を目の当たりにしたからではないか。原作における重要なキャラ設定の裏側に、私がいる。
まあ、漫画開始時点で私は居ないのだから関係ないか。自分の死後の事など、考えても無意味。

呼吸が苦しくなる。私は福沢諭吉をじっと見つめる。息ができない。ああ、意識が落ちそうだ。

私の視界は暗転した。

・

次に目が覚めたら、独房の中だった。
確かに堅牢に作ってあるが、私なら脱出は容易にできてしまう。

……ああ、退屈だ。

・

福沢諭吉が来た。
少し会話をした。
尤も、小説(マニュアル)通りの会話だったが。

もしここで救いを求めていたら、織田作の運命は変わっていただろう。
だが、私はそれをしなかった。できなかった。

私は、織田作の運命を変えるのが怖い。

私の中の織田作は小説のキャラクターで、私が想う織田作は多分美化されているのだと思う。

織田作を穢さないため、私は織田作になった。近づけるよう最大限の努力をした。
そうして私は今、織田作になったのだ。


織田作を穢さないよう、小説通りの行動をする事の何が悪い？
ーー何も悪くない！！
織田作の人生をなぞって、まるで本物の織田作のように振る舞う事の何が間違っている？
ーー何も間違っていない。あなたは正しいとも！！
私は自分で自分を肯定する。そうだ、正しいのだ。

ーーーでも、そこにあなたの意志はあるの？

核心をつかれたような心の声に、どきりとする。
私の意志は、織田作を、護ることで、

ーーーあら、可笑しいわ、滑稽(おか)しいわ！！ あなたは織田作になったのでしょ？
ーーーならばなぜ貴方の行動が織田作の行動にならないのかしら？？
ーーー織田作之助の行動は私の行動でしょ。でも私の行動は織田作之助の行動になってないじゃない！！

ああ、せっかく見て見ぬふりをしていたのに。やめろ、やめてくれ。それ以上は言っちゃだめだ。

ーーー結局、まだ貴方は不完全なの。貴方は一生かかっても織田作になんてなれないわ。絶対にね。

今迄、私がやってきた、こと、は……？

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