【文豪ストレイドッグス】シャチはイルカを食べるのだ

水族館のシャチとイルカ4 ページ6

甲高い声が聞こえる。鶏みたいに元気に喚く声が部屋を埋める。
江戸川乱歩の推理シーンであり、福沢諭吉との邂逅シーンでもある。生でこの目で見たかったものだが、生憎私の視界は、厚手の黒い布袋によって塞がれている。おかげで真っ暗だ。

声が聞こえる、推理も終盤のようだ。
私は薄れた記憶を辿り、極力原作通りになるよう行動した。
椅子の脚を折り、脚を自由に動かせるようにする。流石に私の筋力は、鉄線を含んだ縒り紐を引きちぎれるようには出来てない。
その際、ごとん、と音を立ててしまった。気付かれたな。
「伏せろ！」
いい判断だ。ドアの裏側に隠れていた私は衝撃に、思わずくぐもった声を上げた。くっそ、痛い。
だが、捕まるわけにもいかない。
私は持ち前の跳躍力で天井付近までジャンプし、ドアから離れるため、壁を蹴って距離を取る。念のため、床も蹴ってさらにもう一歩分の距離を取った。

手も使えない目も見えない、動きにくい事極まりないが、それでも殺れる。
福沢諭吉と織田作はこの最中に対談していた。
ここは沢山読んだ。覚えてる。割と一言一句違わず。
「あんたと戦う気はない」
福沢諭吉はこれに応えず、攻撃を仕掛けてくるはず。
数メートルは距離をとっていたはずだが、一気に詰められた。奥襟を掴まれたが、私は抵抗せず、勢いそのまま後ろに跳んだ。
この辺に無いか、私の拳銃。
私は後方に押し飛ばされながら、後ろ手に得物を掴む。

私は福沢諭吉に容赦なく壁に押し付けられた。ほら、女子の大好きな壁ドンだよ殺伐とし過ぎてドキドキするぜ……！
肘で胸を押さえつけられ、呼吸がしにくくなる。
私の手が背中と壁に挟まれて軋む。痛い痛い、ミシミシ言ってるって。
流石の私もこれでは銃を撃てない。
「銃を離せ」
福沢は云った。
「貴様は俺の商売敵だが、今のところ不法侵入以上の罪状は無い。今ならば軽い罪状で赦される」
「赦しなど要らない」
福沢諭吉なりの説得のつもりだろう。だが私はその言葉に間髪入れずに、食い気味に答える。
胸を抑えられているせいで声が出にくい。
「この世界に赦しなどない。あるのは報復だけ。裏切り者への報復だ」
そう云って私は床から足を離した。
私は壁を擦るようにずるずると下に下がる。途中で腰をひねり、体を半回転させ銃を放った。
二発だ。
どうやら当たったようだ。良かった良かった。


その直後、私は床ドンを経験した。どきどきで死にそうだ。

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