そうしてシャチは死んだ3 ページ47
〈織田作視点〉
パチリと目を覚ますと、そこはさっきまで映像で見ていた場所だった。
自分の手をグーパーして、生きてることを確認する。
ああ、現実だ。久し振りに見た。
世界はこんなに鮮やかなものだっただろうか。
自分で行動することに違和感を覚えた。
長らく、他人に任せっぱなしだったからか。
「織田作、君って奴は本当にどうしようもない莫迦だね! 大莫迦者だよ!」
乱歩さん。ずっと見ていたから知っている。
彼女(だったとは驚いた)がまるで俺が話してるように喋ってくれていたから、俺は初対面だが初対面な気がしない。精神世界(のようなもの)にいる時も、俺が思ってる事を喋ってくれる事が多く、俺が自分の体を動かしていると錯覚することすらあった。
自分を殺し、他人になりすますのは、どれほど大変な事だっただろう。
「……すまない」
俺が乱歩さんに謝ると、乱歩さんは「まったくだよ! 肉体労働なんて僕の仕事じゃないんだからな!? なんで僕がわざわざ動かなきゃいけなかったのか……君のせいだぞ!」と元気に喚き散らしている。
「もー本当に疲れた! 罰として、今度の仕事の時は僕が要求するお菓子代、全部君が払えよ!」
「すまない、乱歩さん。俺は辞表を出してしまったんだ。もう、一緒に事件を解決することは……」
「あんなの無効だよ。僕が直後にビリビリに破り捨てたからね!」
なにしてるんだ。
そう思ったが、まあ乱歩さんだからな、と思うと許せるのが不思議だ。
俺は与謝野先生にもお礼を言う。
「ありがとう、与謝野さん」
「まったく、アンタがこんなに馬鹿だったとは思わなかったよ」
「すみません」
彼女の異能がなければ、俺は今頃死んでただろう。
何度見てもすごい異能だと思う。
その異能が俺にあれば、子供たちを救えたのに、と思ってしまった。だが、俺の異能はたかが5秒の未来予知。それが俺だから仕方ない。
そして、一番お礼を言いたい彼女は、ちゃんとどこかで生きてるんだろうか。
俺に現実世界に戻って欲しいが為に吐いた嘘、という可能性もあるが、彼女が生きている事を信じたい。
俺が2度目の人生に嫌気がさしてたあの時、俺の体は乗っ取られた。それはまるで一種の救いのように感じたのに。
ああ、そういえば結局、彼女の名前を聞いてないな。
・
「……それで、いつまで床に這ってるつもりだジイド」
お前も与謝野さんに治してもらったのだろう?
彼女は目の前にある命を見捨てるような真似はしないからな。
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翡翠 - 凄い文章力の羅列…裏山しいたけ(古い)何なんだ !あなたは !天才か! ?文豪じゃないのk(( はい。これからもどうか、頑張っていってください !更新を心待ちにしております!!! (2019年12月11日 1時) (レス) id: 72fefee69b (このIDを非表示/違反報告)
らい - 面白い........!これからも更新頑張ってください。応援しています。 (2019年8月9日 2時) (レス) id: 3b0d55ccc1 (このIDを非表示/違反報告)
チューリップ - 織田さんの成り代わりある様でないですよねぇ〜。更新待ってまーす (2019年4月4日 1時) (レス) id: 8fad14733d (このIDを非表示/違反報告)
ひな - とっても面白いです!更新楽しみにしています。頑張って下さい! (2018年12月3日 15時) (レス) id: 81fb36e344 (このIDを非表示/違反報告)
世桜 - 凄く面白くて、一気読みしました!!細かな心情が描かれていて、続きが気になります。更新心待ちにしています。頑張って下さい! (2017年4月10日 0時) (レス) id: f27162b486 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:まあじ | 作成日時:2016年6月12日 11時