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「ねえシルク。
ラムネの中に入ってる玉ってさエー玉って言うんだよ
ABCのA。
ラムネに蓋するために綺麗な丸になってるんだよ。
少しでも綺麗な丸じゃなかったらそれは使えないの。
ビー玉になるの。
きっと私はビー玉で
シルクはエー玉だよね。
これからもこの先も」
Aが中学生の頃、ラムネを飲みながら突然言ったその言葉の意味を、俺は今でも探している。
「シルク?考え事?」
「違えよ」
10年経った今でもなお、だ。
考えれば考えるほど答えは出なくなっていくし、何よりそんな難問を突きつけてきた目の前のこいつに答えを聞きたくなってしまう。
「あー、私の事考えてたの?顔赤いよー」
どうもこいつは全く覚えていなさそうだが。
「アホか」
俺の気持ちも知れずのうのうとしている、目の前の奴にひと蹴り入れると、
「ふふ。あ、明日の撮影は何時から?カメラ持つよ」
さらにのうのうとしやがるものだから、あの時のことはもう二度と考えてやるものか、と意地を張ってしまう。
…まあ、結局考えてしまうのがオチになるのは、毎度のことであるのだが。
「ああ、そうだな、朝の7時にいつもの所で待ち合わせだな」
のうのうとしている奴だが、仕事はできる奴だ。
そういう意味では誰よりも信頼しているし、結局のところ俺はこいつにだだ惚れなのだと気付く。
「わかった。超画質良く撮ってあげるよ。シルクの毛穴見えるくらいに」
「やめろ、気持ち悪い」
また俺の中で小さな苛立ちの火種が生まれそうなのを必死に食い止めた。
「じゃあ明日ね」
今日はいつもより切り替えが早い。
急ぐ様に玄関で靴を履くあいつの肩を叩き、振り向き様にそっとキスをした。
「また明日な」
なんだかんだ惚れている事がおかしいようにも思えた。
「うん、大好きだよ。諒」
そんな事を払拭する様に掛けられたその言葉を脳内で幾度となく再生してしまいそうになるのを抑えた。
ドアを開け手を振り帰って行くあいつ。
ドアが閉まり、遠ざかっていくハイヒールの音だけがあいつの形を空間に残していた。
女々しい事を考える暇もない事に気付いた俺は、リビングに戻り編集に取り掛かる。
明日も一日平穏でありますように。
漠然とした願いをパソコンに向けてしてしまうくらいには疲れてきているのだろう。
そんな日があってもいいか、と切り替え、作業を続けた。
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花梨 - 楽しみにしてます!! (2018年11月6日 18時) (レス) id: e6157cc2f4 (このIDを非表示/違反報告)
橘雫(プロフ) - 花梨さん» ありがとうございます!色々と修正してもっとキュンキュンして頂けるような小説にしていきますので、お楽しみに! (2018年10月6日 22時) (レス) id: 1c9cad39f6 (このIDを非表示/違反報告)
花梨 - 最高すぎです!文才が神すぎです。終始きゅんきゅんでした。こういう感じのガンガン書いてください!めっちゃよみます!フィッシャーズ最高!!! (2018年10月2日 21時) (レス) id: e4eb9fe5a5 (このIDを非表示/違反報告)
橘雫(プロフ) - 書き直しを始めました。急ピッチで進めているため、誤字等あるかもしれません。その場合はご指定いただけると嬉しいです。 (2018年9月25日 15時) (レス) id: 1c9cad39f6 (このIDを非表示/違反報告)
なな(プロフ) - すごいですね!最初からこういうのにしようって考えてたんですね!?素晴らしい!! (2018年1月1日 22時) (レス) id: 2870e13e2c (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:橘雫 | 作成日時:2017年4月17日 19時