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「なに…って…」
彼は眉をひそめて、もう何度目かになる苦笑いを浮かべた。
「いつもなんでも分かったような顔して、私の心見透かしたみたいに笑って…っ!」
ああ、もうイヤだ。
なんでこうなってしまうんだろう…
声を上げれば上げるほど、頭に血がのぼる。鼓動が速くなって、呼吸も荒くなる。
鼻の奥がツンとして目の前が滲んだ。
油断したらじわじわと溜まっていくそれがこぼれ落ちそうで、キュッと下唇を噛む。
ずずっと鼻を啜ってから、呼吸を整えるために1度大きく息を吸って吐いた。
「誰にも何も言ってなかった。瑞稀くんの時も…浮所くんの時も…」
「それは、ずっと見てたから。Aさんが瑞稀くんを見てたみたいに…ずっと。だからわかったんだよ」
彼はエスパーだって思っていた。
現実問題そんなはずないのはわかっていたけど。
それでも困った時に助けてくれたり、泣きそうな時はそばにいてくれたり、私の心をいつも見透かす彼はエスパーなんだって…そう思っていた。
「いつだってAさんの視線は俺を通り抜けて、矢印はずっと一方通行。向き合うことなんて1度もなかったけど。でも、それでもいいって思ってた。それでもいいって思えるほど、Aさんが好きだった」
「なに…それ……」
「ずっと言えなかった。全部壊すくらいなら今のままでいいって思ってた」
「まあ、俺のせいで結局全部壊れちゃったけどね」と今度は自虐を込めたように笑う。
目は合わなかった。
わざと合わせないんだろう。
どれだけ見つめても彼は視線を足元に落としたままで、私を見てくれない。
辺りに彼の乾いた笑いが響いて、それを遮るように「作ちゃん」と呼んだ。
もう何年も呼んでいなかった名前。
はっきりと声に出したつもりなのに、その声は不格好なくらい震えていた。
「…今、好きな人はいる?」
「いるよ」
「だれ…っ?」
また声が震える。
茶色く色素の薄い瞳が私を捉えた。
「今、俺の向かい側で必死に涙堪えてる子」
「……っ、」
「Aちゃんが好きだよ」
瞬きをしたら堪えきれなくなった涙がこぼれ落ちた。
遅いよ……遅い。
遅すぎるよ__
「私ね……結婚するの」
そう言うと、普段はあまり大きく変わらない表情が、一瞬固まる。
無言で見つめられて、数秒。
時が止まったかのように辺りに静寂が立ちこめて、それから彼はひとことだけ
「……そっか」
と呟いた。
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の - 凄く感動しました。作ちゃんがもう作ちゃんで場面が想像できました。瑞稀くんが結婚するって言った時は泣いてしまいました。片想いって本当にしんどいです。作ちゃん最後は報われてよかったです。久しぶりにこんな胸が痛くなりました。 (2021年8月31日 23時) (レス) id: 2c22fbd9c9 (このIDを非表示/違反報告)
asumin110(プロフ) - これの作間くんがあったら是非読みたいです!!! (2021年3月6日 8時) (レス) id: 310d1e6e98 (このIDを非表示/違反報告)
ちぇりー - 今更感想すみません。最後めちゃめちゃ泣いたし井上担なのにすごく幸せな気持ちになりました……読んでよかったです!! (2019年12月4日 1時) (レス) id: 533c7622c3 (このIDを非表示/違反報告)
じ ゅ き * - 呼んでて涙出てきちゃいました!! これからも作品楽しみにしてますっ (2019年10月24日 19時) (レス) id: 3ad5a89366 (このIDを非表示/違反報告)
ニャニャコ - めちゃくちゃ良かった! (2019年8月24日 15時) (レス) id: 6881cb58fa (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:りゅりゅ | 作者ホームページ:https://twitter.com/ryuryu_movie?s=09
作成日時:2018年11月19日 11時