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「なにやってたの?こんなところで」
「早く着きすぎちゃって暇つぶし。……作間くんは?」
「俺も」
光沢のある上品なネイビーのスーツはきっと値の張るもの。
でも彼はそんなこと気にしない様子で防波堤に手をつくと、そのままひょいっと腰掛ける。
顔だけを私に向けた彼はもう一度「久し振りだね」と言った。
その言葉に「そうだね」と返す。
「元気だった?」
「それなりにね。作間くんは…?」
「それなりに元気だったよ」
「……そう」
いったん言葉が途切れると、まるで決められていた
どちらも口を開かない。
もしかしたら彼も私と同じように開けないのかもしれないけど。
それでも彼はやっぱりポーカーフェイスで、いま何を思っているのか…その表情から読み取ることはできなかった。
どれほどの間こうしていたんだろう。
二人の間には風の音だけが響いていて、潮の匂いを運ぶように海から上がってきた風が二人を包み込んだ。
その潮風が沈黙を引き裂いたのか、
「ねぇ、Aさん。じゃんけんしようか」
彼はなんの前触れもなく唐突にそんなことを言う。
それは、はるか昔。
いつかにも聞いた言葉。
「最初はグー、じゃんけんぽんっ!」
今回も前回同様やるとも、やらないとも、答える間は与えてもらえない。
もはや条件反射的に出した手は、私はグーで彼はチョキ。
「あー、Aさんの勝ちだね。負けた人は勝った人の言うこと聞くってルールだから」
「バカじゃないの…?」
「バカだよ、俺は」
開き直ったのかなんなのか。
淡々とした声色で言った彼は、ぴょんっとそこから飛び降りると、私と向かい合うようにして立った。
「何にする?なんでもいいよ。なんか奢れーとか、一発芸やってとか、なんでも」
「なんでも…?」
「うん。なんでも」
「……じゃあ、これから私が聞くこと全部答えて」
ずっと、ずっと、胸に引っかかっていたことがある。
ずっと、ずっと、聞きたかったことがある。
「嘘つくのも、はぐらかすのも、ごまかすのもなし」
人の痛いところは突くくせに、彼はいつだって自分のことになるとはぐらかして、笑ってごまかすから。
「全部、正直に答えて」
「うん。わかった」
頷いたその人は「何から知りたい?」と首を傾げた。
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の - 凄く感動しました。作ちゃんがもう作ちゃんで場面が想像できました。瑞稀くんが結婚するって言った時は泣いてしまいました。片想いって本当にしんどいです。作ちゃん最後は報われてよかったです。久しぶりにこんな胸が痛くなりました。 (2021年8月31日 23時) (レス) id: 2c22fbd9c9 (このIDを非表示/違反報告)
asumin110(プロフ) - これの作間くんがあったら是非読みたいです!!! (2021年3月6日 8時) (レス) id: 310d1e6e98 (このIDを非表示/違反報告)
ちぇりー - 今更感想すみません。最後めちゃめちゃ泣いたし井上担なのにすごく幸せな気持ちになりました……読んでよかったです!! (2019年12月4日 1時) (レス) id: 533c7622c3 (このIDを非表示/違反報告)
じ ゅ き * - 呼んでて涙出てきちゃいました!! これからも作品楽しみにしてますっ (2019年10月24日 19時) (レス) id: 3ad5a89366 (このIDを非表示/違反報告)
ニャニャコ - めちゃくちゃ良かった! (2019年8月24日 15時) (レス) id: 6881cb58fa (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:りゅりゅ | 作者ホームページ:https://twitter.com/ryuryu_movie?s=09
作成日時:2018年11月19日 11時