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「送ってくれてありがとう」
佐「いーえ。気をつけてね」
「ふふ エレベーター乗るだけだよ」
佐「何があるか分かんないじゃん?
Aちゃんおっちょこちょいだし、転んじゃうかもー」
「大丈夫だよー
あ、これ洗濯して返すね」
「着て帰っていいよ」と言われて貸して貰ったパーカー。男の人にしては小柄なさっくんだけど私にはやっぱり少し大きくて、肘のあたりまで袖をぐるぐる捲って着てる。
「さっくんこそ気をつけて帰ってね」
佐「佐久間さんはドジっ子属性じゃないから大丈夫なのー」
「なにそれー」
ふふふって笑う。
なかなか出発しないさっくんを不思議に思いながらもエントランスに入らせて貰うことにした。
「じゃあね」
佐「…うん」
「?また仕事で!」
康二くんとまではいかないけど、さっくんに手を振ってバイバイする。最後までどこか浮かない顔をしてたけどどうしたんだろう。
ぼんやりしてたらエレベーターの扉に挟まりそうになって苦笑いした。私って自分で思ってたより鈍臭いのかもしれない。
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鍵を開けるのを一瞬躊躇ったけど、部屋には誰も居なかった。昨日家を出た時と何も変わった様子はない。
…まだ帰ってないんだ。
今までだったらこんな時は、そのまま休日出勤してるんだろうなって思ってた。そんな自分が馬鹿みたい。
職業柄、何かに使えるかもってなかなか捨てられずに溜まっていた段ボールを引っ張り出して必要な物を詰めて行く。
まさか荷造りに使うとは思ってなかったな。
お気に入りのお洋服、絵本、趣味のカメラ、アルバム…
「っ…」
自分の意思とは関係なく溢れるそれが、写真を濡らす。
頭が痛い。
私の代わりに泣いてくれたら良いのにと思うほど、空は雲ひとつない快晴だった。
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「災難だったわねぇ…」
「あはは…踏んだり蹴ったりですよね」
よしよし、と柔らかい手で子どもたちにするみたいに私の頭を撫でてくれたのは先輩のみどり先生。
私が1年目の頃からお世話になってる大ベテランで、母親みたいなみどり先生にはよくこうして保育のこと以外でも話を聞いて貰っている。
みどり「物件探しは?順調?」
「それがなかなか…時期的には丁度ピークが終わって探し時だとは思うんですけど…」
新生活に向けて3月が一番忙しいと聞く。
新年度が始まってもうすぐ2週間。
引っ越し業界も少しずつ落ち着いて来ているはず。
何件か内見にも行ってみたけどこれといった部屋は見つからない。
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あむ(プロフ) - 名無しさん» ありがとうございます!暖かいお言葉嬉しいです^ ^更新がんばります! (3月27日 13時) (レス) @page34 id: 3fabfc8fab (このIDを非表示/違反報告)
名無し(プロフ) - お話の流れと展開が好きです (3月26日 21時) (レス) @page36 id: 5ebabfabca (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:あむ | 作成日時:2024年3月18日 23時