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照「…ふっか、入るよ。」
出来るだけ音を立てないように、と静かに襖を開く。小さく呟いた其の言葉にも、返ってくる声はない。代わりに部屋には、心なしか少し小さくなった荒い息の音だけが響いていた。
引いてある布団の横に腰を下ろして、額に載せた手拭いに手を伸ばす。ほんの半刻前に亮平が変えた筈の手拭いは、既に熱を帯びていて。
赤らんだ額や首に浮かんでいる汗を拭ってから、熱くなった手拭いを水の張った盥に戻す。代わりに、水から引き上げた手拭いを絞って額にのせる。僅かに身動ぎした気がして目を向けるが、菫色は瞼に覆われたままだった。
熱かったのか、其れとも寝苦しくて寝返りを打ったのか、肌蹴ていた浴衣を直そうとして、照の手がふっと止まる。
こちらを睨み付ける、二対の鋭い瞳。しゅるりと伸びた細い舌がそのまま細い体躯を飲み込んでしまいそうな妖力を纏っている。腰の方まで伸びている体の色は、相も変わらず菖蒲色だった。
辰哉が大蛇に噛まれてから、早幾日。
意識を失った後、そのまま熱を出した辰哉は、未だに意識が戻っていなかった。
罪悪感を一人で背負いこんで、最初の夜こそずっと側についていた亮平も、佐久間や翔太に説得されたのか、必死に治療法を模索していた。何せ、医学を学んでいた亮平以外にろくに治療法を知っているものも居ないのだ。…『種族』が違うのも相まってか、手分けして探しているものの中々治療法が見つかっていなかった。
小さく溜め息をつくと、少し汗ばんだ癖っ毛をふわりふわりと撫でてやる。照の脳裏には、先刻、辰哉の寝ている部屋から出てきて、珍しく泣きそうな顔をした亮平が苦しそうに告げた言葉が焼き付いていた。
亮『…このまま、熱が下がらないで、毒が全身に回りきったら…っ、辰哉が、ほんとに、死んじゃうかもしれない、って…っ！』
どうやら急いで都の先生、とやらの所まで行って病状を伝えたらしい亮平は、先生にそう言われたらしい。どの種類にしろ、高熱が出る毒は大抵じわりじわりと体を蝕む物。得体の知れない毒ともなると、辰哉は既に危ない状態だった。
眉根を寄せて考え込んでいた照は、小さく身動ぎした辰哉に目を向ける。
…人間は脆弱な生き物だ、と教えられて育ってきた。
『あの家』のことなんか思い出したくもないけれど、必死に息をしている辰哉を見ると、それが痛いほど解ってしまった。
…死ぬなよ…！
それだけを願ってずれた額の手拭いを直した途端、襖が音を立てて開いた。
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莉月(プロフ) - 優さん» こちらこそリクエストありがとうございました！楽しんでいただけていたら幸いです。これからもよろしくお願いします！ (2021年1月27日 7時) (
レス) id: d1f373beb4 (このIDを非表示/違反報告)
優(プロフ) - お話書いて頂きありがとうございました！これからもお話楽しみにしています！ (2021年1月26日 21時) (レス) id: a7e52b77bc (このIDを非表示/違反報告)
莉月(プロフ) - リクエストはここで締め切らせていただきます！リクエストしていただいた皆様、ありがとうございました！お話になるまで、少々お待ちください。 (2021年1月6日 11時) (レス) id: d1f373beb4 (このIDを非表示/違反報告)
莉月(プロフ) - さのちゃんさん» 最後の一枠なので大丈夫ですよー！リクエストありがとうございます。 (2021年1月6日 11時) (レス) id: d1f373beb4 (このIDを非表示/違反報告)
さのちゃん(プロフ) - まだリクエスト大丈夫でしょうか？橙くんが怪我して敵に捕まって黒くんがすごく怒るお話を読みたいです。よろしくお願いします！ (2021年1月5日 21時) (レス) id: f84afddcf2 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：莉月 | 作成日時：2020年5月30日 12時
