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「…きて、Aちゃん起きて」
遠くから聞こえる名前を呼ぶ声に私は少しだけ目を開ける。
「Aちゃん。ここじゃあ風邪引くよ。ベッドで寝な」
「…べっど…」
「そう。ベッド。ほら連れてってあげるから寝よ」
眠いし体がだるいしで動きたくなくて軽く頭を横に振ると彼は少し考える素振りを見せたあとどこかへ行った。
多分私が言っても聞かないから彼は彼で寝るんだろうな〜と思ってまた目を閉じる。
「あ、こら隙あらば寝ようとしないの！ほらこっち移動して！」
彼は来客用の布団を抱えてきてソファーの近くの床に敷いた。
ベッドまで行きたくないならここで布団敷いちゃえばOKでしょ、なんて笑いながら私の頭を撫でる。
その手が優しくて、温かくて。
「たつや」
「ん？」
「わたしたち、つきあう？」
「…でもあと5日しかないよ？」
「つきあうの、いや？」
「嫌じゃないよ。めっちゃ嬉しいけど、でも…」
俺が帰ったあと、絶対悲しませる。だから付き合わないでおこう、なんて言うつもりだろうがそうはさせない。
「けっこんしようっていったのは、たつやじゃん」
「ん〜それはそうなんだけど…」
「…つきあう。もうきめた。きょうからかっぷる！」
眠気とあまり抜けてないアルコールは私をいつもよりめんどくさい、でも素直な気持ちを話す女にした。
いつも言わないことを口にする私にきっと辰哉は驚いているけど突拍子もないことを言うのはいつもの辰哉にも言えることだから。
「…本当にいいの？Aちゃん」
「うん」
「じゃあ…今日から5日間、俺の彼女ね」
そう言って優しくぎゅっと抱きしめてくれた辰哉からもうすっかり慣れてしまったインクの匂いと、彼の鼓動をを感じながら私はもう一度目を閉じて眠りの世界に落ちた。
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作者名：雪野真哉 | 作成日時：2024年3月15日 22時
