5 ページ6
.
少し隙間が空いていて中を覗く。
開かれたままの引き出しと、落ちた判子、それから1枚の紙を持って動かない兄の姿。名前を呼んでも一向に動かなければ返事もしないのを不思議に思いドアを開けて入ろうとすると信じられないスピードで兄はこちらを向いた。
「入ってくるな!!」
ひゅ、と呼吸の仕方を一瞬忘れた。
血相を抱えた顔で怒鳴られる。温厚で喧嘩もしたことなさそうな兄のあんな顔を見たのは初めてのことで息がしずらく言葉が詰まる。
『……はん、こ』
「ごめん、ちょっと驚いただけなんだ」
やっとの事で出た言葉に兄はハッとした顔をし急いで判子を持って私の前に来た。申し訳なさと戸惑いが見える兄の顔を一瞬見ては逸らす。震えた手で受け取ろうとした判子は兄と私の間に落ちていった。
『しっかり、して、よ』
屈んで判子を取り引きつっているとしても笑いかけようと上を向くと兄は同じ様に少し屈み私の頰に手を添えて顔を近づけた。目を瞑った兄の顔がスローモーションの様に近づいてきた。
何をされるか、なんて分かっていた、拒むことも出来た、だけど私はそれをしなかったのだ。
唇に柔らかい唇がそっと触れ、すぐさま離れる。
「ごめん」
顔を見せなく判子を取って階段を駆け下りる兄に取り残され静かな書斎に1人になる。
.
227人がお気に入り
この作品を見ている人にオススメ
「永瀬廉」関連の作品
感想を書こう!(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
プラム - 返信ありがとうございます。ヨモギさんの作品好きです。これからも楽しみにしています! (2019年8月29日 0時) (レス) id: bd64163aa1 (このIDを非表示/違反報告)
ヨモギ(プロフ) - プラムさん» プラムさん、コメント有難うございます。私も岸くんは普段考えてないように見えるけれど実は誰よりもグループのことを考えて行動している気がします。お気に入りのシーンを好きと言って下さって嬉しいです、有難うございます! (2019年8月28日 9時) (レス) id: f404b9d437 (このIDを非表示/違反報告)
プラム - 岸くんは太陽みたいな人だけど、月の様な部分もあって。メンバーの誰よりも現実的に物事を捉えているように感じます。お話の中でリアルな岸くんを感じてドキドキしました。車の中でのシーン、私も大好きです。何とも言えない感情が沸き上がってきて、胸が熱くなりました (2019年8月27日 18時) (レス) id: bd64163aa1 (このIDを非表示/違反報告)
海里(プロフ) - ヨモギさん» いえいえ!返信ありがとうございます!! (2019年7月22日 17時) (レス) id: 5be75b73df (このIDを非表示/違反報告)
ヨモギ(プロフ) - 海里さん» 海里さんありがとうございます、そう言って下さって嬉しいです! (2019年7月20日 14時) (レス) id: f404b9d437 (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名:ヨモギ | 作成日時:2019年7月17日 11時