漆黒の禍狗はパパになったようです

ひなまつり ページ29

(3歳位です)
「まま、おにんぎょ、きれいねー」

「うん、綺麗だねー」

芥川家には、とても綺麗で立派な雛人形がある。

御内裏様にお雛様は勿論、三人官女から五人囃子まで揃った、とても立派な雛人形だ。此れは、治春が生まれて初めての桃の節句を迎えた時に紅葉の姐さんから貰った物だ。初めてこの雛人形を見たとき、龍之介とAはこんな立派な物を貰って良いのかと二人で慌てたが、その様子を見た姐さんに

「私(わっち)に取って治春は愛い孫のような存在じゃ、二人ともそう遠慮するでない。それに、雛人形は厄除けの意味もあるからのぉ」

と云われ、その好意を無碍にするのも申し訳無いし、何よりも姐さんが治春のことを大切に思ってくれている事が嬉しかったので、有難くその人形を貰ったのだ。

「ぱぱ、きれいね！」

ふと、龍之介の腕の中の愛娘が目をキラキラさせながら父親に話しかけてきた。今日は父が仕事が休みで一日中一緒にいられるのが嬉しくて仕方がないらしい。

「嗚呼、綺麗だな治春」

龍之介はそう云うと、優しく治春の頭を撫でて頬に優しく接吻(キス)をすると、Aの腰を抱き寄せ、その頬にも同じように優しく口付けた。

「ふふ、幸せだね、龍」

「嗚呼」

貧民窟の溝の中で、肩を寄せ合い暮らしていた頃には夢にも思わなかった幸せが、確かに此処にある。マフィアの一員として闇の世界で生きる二人にとって、それはとても心地の良いものであり、何よりも愛おしいものだった。

「ねえ、龍」

不意に妻に名前を呼ばれ、龍之介が顔を向けると、唇に柔らかく、温かい物が押し付けられた。


接吻(キス)されたと分かるまで数秒かかったが、龍之介は珍しく自分から口付けてきた妻の愛らしさに目を細めると、そっと彼女の頭を撫でた。

彼女は龍之介から離れると、陽だまりのように

「大好きだよ、龍、治春ちゃん。これからも、宜しくね」

と笑い、龍之介も

「僕も、これから宜しく頼む。A、治春―愛してる」

と、腕の中の最愛の娘と妻を抱き締めた。

両親の間に挟まれた治春も嬉しそうに

「ちーも、ぱぱとまま、だいすきー！」

そう、きゃっきゃと笑っていた。

そんな芥川家を、３月の穏やかな日光が照らしていた。

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因みに、史実の芥川龍之介の奥さんは、子供は全員男の子でしたが毎年雛人形を飾っていたそうです。

2020.3.3 総合94位ありがとうございます！

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