ヤマドリは鳴く【刀剣乱舞】 (ページ3)

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三ページ3

　…………はぁ………………。

　しばらくの沈黙。そしておもむろに重く長いため息を吐いたかと思えば、山鳥毛はかしかしと後頭部を掻いた。左手から顔を覗かせた妖精ちゃんは、その眼差しの冷たさに驚いて、ちょっとだけ首を縮める。(元から縮められるほどの首もないが。)あくまでも静かに、努めて穏やかに。されど確かで冷ややかな激情を孕んだその瞳は、悲しいほど真摯に現実を見つめていた。だって山鳥毛は知っている。現実はいつだって理不尽で残酷だし、目を逸らしても無駄なのだということを。

(最悪だな。)

　灰色に埋もれた銀色。瞼の裏の瑠璃。つくりものの肉の器。本作長義、以下58字略。またの名を山姥切長義。
　金床にもたれかかるように座りこんでいるその刀は、血錆と埃に塗(まみ)れてなお、美しかった。

　山鳥毛はその場にそうっと屈み、右手の手袋を口で外す(少々無作法だが、左手には妖精ちゃんがいるので仕方がない。)と、くすんだ髪を耳に流した。頬は青白く、目の下には隈もできている。銀色の長い睫毛は額から垂れてきた血がこびりついて固まっていて、ひとまず山鳥毛は審神者を一発殴ることに決めた。本来ならば万死に値するところを一発で勘弁してやるのだから、審神者には感謝してほしいところである。震えて待ってろ。
　それはそれとして、これ以上この刀が埃を被るなんて山鳥毛が許せない。白く積もった埃を優しく払い、ひとまず、何もないよりはマシだろうと山鳥毛のコートを山姥切の肩にかけた。(妖精ちゃんには一旦金床の上で待機してもらった。感謝。)

(しかし、こんなところで出会いたくはなかったな……。)

　山鳥毛はしみじみとそう思う。貴方とは、もっと綺麗で、もっとあたたかい出会いをしたかった、とも。この刀には、”男”としてよく世話になっていたので。案外狭い監査部の同僚として(違法本丸摘発課は監査部の一部である。)、その横顔はよく見てきた。その気高い在り方が好ましかった。その苛烈な眼差しに惹かれた。いつの間にか山姥切長義という刀は、一等特別な存在になっていたのだ。(恋愛と慈愛と親愛と敬愛をごちゃまぜにしたようなものを、単に”特別”という言葉で括っていいのかはなんとも微妙なところだが。クソデカ感情持ち過激派とは難儀なものである。)

　まぁそんな思い出話はどうでもいい。大事なのはこれからなのだ。
　山鳥毛はそうっと立ち上がり、襟を正して妖精ちゃんを左手に招いた。