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「……さて、どうしたものだか。」
赤い瞳の大柄な男、またの名を山鳥毛は、“誰もいない”鍛刀部屋(しかもやたらと薄汚れている。少なくとも長居はしたくない。)を見回して、困ったようにぽつりと呟いた。というか普通に困っていた。
この山鳥毛が困っている理由は主に二つある。
ひとつは上記の通り、己を顕現したはずの審神者の姿が見えないこと。それどころか耳を澄ませても物音ひとつ聞こえやしないとはどういうことか。答えは簡単、ここは正常に機能している本丸ではないということだ。ほら見ろ、その証拠に山鳥毛の依代を打ったらしき刀鍛冶の妖精の顔色も悪い。(“本丸を知りたければ妖精を見ろ”と審神者養成学校でも習う通り、本丸の各所に存在する妖精の体調は、本丸に満たされている審神者の霊力によって左右される。この妖精の顔色が悪いということは、少なくともこの本丸にマトモな霊力の持ち主はいないということだ。要するに主ガチャ……小鳥ガチャ?は九割九分九厘の確率で爆死確定なのである。乙。)
これがいわゆる“最初からハードモード”。自らの将来を案じて遠い目をした山鳥毛は、近くにいた妖精の頭を指先でそっと撫でた。あ。笑った。可愛い。
そして、まだ。もうひとつ、山鳥毛が困っている理由がある。
何を隠そう、この山鳥毛。勘のいい
話を戻そう。これの何が困ったことかと言うと、この記憶を持っていることによって山鳥毛は、転生案件の生き証人になってしまっているのだ。めちゃくちゃ簡単に言えば、政府の怪しい所に連行されて、あんなことやそんなこのをされる可能性があるということである。(人間の記憶を持った刀剣男士なんて前代未聞。解剖されるか売り飛ばされるか解剖されるかがオチだ。南無三。)
……という訳で山鳥毛は困っている。ご理解いただけただろうか。なお、前置きが長いという意見は黙殺させていただく。
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作者名:とまり | 作成日時:2022年7月24日 23時