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あれから1時間。
補習が終わるチャイムが鳴った。
先輩は最後まで、冷静沈着。
俺に媚びるような素振りは一切無かった。
“冷たい”とまでは言わないけど
“関心がない”様子には変わりなかった。
「龍我、後は分からない事があればその先輩に聞けよ」
龍我「はい、あざす」
教室から担任が出ていき、クラスには2人きり。
『何かわからないことある？』
先輩は2人きりという雰囲気を
感じ取る事もなく淡々と質問してきた。
龍我「じゃあ、ここ、教えてください」
ここまで来たら俺にはもう敵わない。
諦めて、真面目に質問することにした。
『あぁ、それなら…』
そう言って、危機感も無く俺に近づいてきた先輩。
顔の距離が近まると、
何処かしら甘い香りがしてきた。
『ちょっと、聞いてる？』
龍我「あ、ごめんなさい」
気のせいか……
その匂いは、
いつの間にか消えて、香ることも無かった。
龍我「あ……なるほど！そういう事かぁ」
比較的、先輩の言いようはサバサバしてるけど、
教え方や解き方はとても易しい。
『そう！やればできるじゃん』
龍我「あ……」
『……なに？』
俺が難しく感じた問題を解けた時、
先輩は初めて、優しく笑った。
思わず驚いた声が出るほど、可愛いものだった。
『あのさ』
龍我「はいっ」
『何も知らないまま、苦手とか言ってごめんね』
龍我「え？」
『真面目な所もあるんだって思って見直した』
また、“苦手”とか言われるのかと思ったけど、
隣の席の先輩は
今度は優しい視線を俺に向けてくれた。
『じゃあ、私は帰るね』
弁解をすると、俺の返事を聞くことも無く
荷物をまとめて、教室を出ようとする。
龍我「あの！」
帰ろうとする先輩を、無意識に止めてしまった。
考えずに発せられた言葉は教室を静かにさせた。
龍我「あ、えと、その、名前！名前教えてください」
『名前…？笑、私はA。じゃあ明日もよろしくね』
龍我「あ……ありがとうございます」
そのまま先輩は教室を後にした。
俺……なんで止めたんだろう
名前とか、俺から聞いた事なんて無かった。
だって、俺に興味無いなんて初めてだし。
……変な先輩。
でも、
もう既にA先輩が、
俺の心に存在してしまった。
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作者名：ホワイトチョコ | 作成日時：2022年6月20日 21時
